新ウルトラマンレオ

別世界のウルトラマンレオの物語

第19話 執事の館

ある館の広い庭に一人の少女が椅子に座っていた。テーブルにはティーポットとカップが置かれていた。

「お客様がいらっしゃるわ。用意して。中川。」少女が言った。

「はい。準備はもうできております。お嬢様。」横に立っている執事が答えた。ティーポットをもってカップに紅茶を注いだ。それに少女は手を伸ばした。しかしそれは探るような手つきだった。カップを持つと口元へ持って行った。目はうつろでよそを向いていた。少女は目が見えなかったのだ。

「今日の天気がどう?」少女が聞いた。

「いい天気でございます。お庭の花々が美しく咲いております。」

「それはよかったわ。みなさま、喜ばれるわ。」

「そうでございますね。」執事は相槌を打った。

「私も一度でいいから見てみたいわ。」少女は言った。

「お目が治ったら、きれいなお花をご覧いただくためにもっとたくさんお植えいたします。」

執事は答えた。その顔は地球人でなく、星人だった。

 

車に4人の男女が乗っていた。音楽をかけながら運転している女性はうきうきしているようだった。

「ドクターのお友達なんですか。」後ろ席のゲンが聞いた。

「そうよ。親同士が仲良かったの。でもお亡くなりになって、今はお嬢さんが使用人と暮らしているわ。」運転しているドクターユリが言った。

「でも僕たちまでついてきてよかったんですか。」ゲンが聞いた。

「いいの。彼女は病気で目が見えないから外に行く機会が少ないの。私一人より若い人が一緒に来てくれた方がにぎやかで喜んでくれると思うの。」

郊外の大きな屋敷の前に車を止めた。4人は門を入っていって呼び鈴を押した。大きな扉が開いて執事が出てきた。40半ばの上品そうな優しげな顔をしていた。丁寧にお辞儀をすると、

「ようこそ、いらっしゃいました。お嬢様がお待ちです。こちらにどうぞ。」

4人はリビングに案内された。少女はソファに座っていた。

「元気だった?」ドクターユリが少女のそばに行った。少女はドクターユリに抱きついた。

「お姉さま。お会いできてうれしいわ。楽しみにしていたのよ。」少女は言った。

「今日は私の友達を連れてきたわ。」

ドクターユリは3人を紹介した。

MAC隊長のモロボシさん。隊員のオオトリさん、シラカワさんよ。」

「たくさん連れてきていただいたのね。歓迎するわ。」少女は喜んでいた。

 

大きな庭で少女とゲンとシラカワ隊員がテーブルの前に座って談笑していた。その楽しそうな光景をモロボシ隊長とドクターユリがリビングに座って見ていた。

「楽しそうね。2人をつれてきてよかったわ。」

「そうだね。」モロボシ隊長が同意した。

「本当にあんなに楽しそうなお嬢様をみたのは久しぶりです。ありがとうございます。」後ろの執事が言った。

「そういえば中川さん、ここは長いよね。」

「さようでございます。もう10年になります。その間、ご主人様や他のご家族の方が亡くなられてからは多くの使用人が暇を取ってしまって、今は私一人になりました。」

1人!じゃあ、大変でしょう?」ドクターユリが驚いた。

「ようやく慣れました。ただ一人なのでなかなか手の行き届かないこともあると思いますがお許しください。では、ご夕食までゆっくりお過ごしください。」執事はそう言うと出て行った。

執事は廊下に出ると早足で歩いて行った。辺りを見回して誰も見られていないことを確認して、ある小部屋に入った。

部屋の中では執事の顔は星人のものに変わった。デスクに座りモニターをつけた。

D-36号、準備はいいか。」モニターに星人が映り、話しかけた。

「お待ちください。本日は地球人が4名、来ています。延期できないでしょうか?」執事の星人が言った。

「いや、待てぬ。夜中に行くので準備を整えよ。」通信はそこで切られた。

 

広間で夕食会となった。テーブルに執事がどんどん料理を並べた。そして少女のそばに立って食事の介助をしていた。

「中川さん、大変ね。お手伝いいたしましょうか。」ドクターユリが言った。

「お心遣いありがとうございます。忙しさには慣れておりますので、お気になさいませんように。」執事は微笑んでいった。

しかしドクターユリには、午後の時と比べて執事の動きにやや華麗さが少ないように思えた。何か考え事をしているかのように見えた。やっぱり、来客で仕事が多いためかもしれない。

夜になり、モロボシ隊長とゲン、ドクターアンヌとシラカワ隊員がそれぞれ2人部屋に 案内された。

「ゆっくりお休みください。何かご用事があるときはインターホンをお使いください。お屋敷内は暗いところが多く傷んでいるところもありますので、夜間は危のうございます。朝になるまではこの部屋でお過ごしください。」執事はそう言うと出て行った。

 

夜間、モロボシ隊長とゲンは目を覚ました。何か普通とは思えない異音が外からしていた。2人のずば抜けた聴力がそのかすかではあるがおかしな音を聞き取った。

「何の音でしょう?」ベッドから身を起こしたゲンが聞いた。

「空からこっちに近づいてくる。あっ、この上で止まった。飛行物体か。」モロボシ隊長も起きて言った。

「まさか。でも気になります。中川さんには止められましたが、ちょっと見に行ってみます。」ゲンが言った。

「そうだな。私も行く。」モロボシ隊長は着替え始めた。

 

玄関の方に向かっていると、モロボシ隊長が急に腕で制止して隠れるように合図した。2人は廊下のオブジェの陰に隠れた。数人の黒ずくめの男たちが音を立てないように並んで歩いていた。そしてある部屋に入っていった。

「何でしょう?」ゲンが静かに聞いた。

「わからん。でも普通ではないな。」モロボシ隊長も声を落として答えた。そして執事の中川も辺りを見回してからその部屋に入った。どう見ても異様な光景だった。

モロボシ隊長は合図してドアの前まで来ると耳をそばだてた。ゲンも同じようにした。

中の声が聞こえてきた。

聞いたこともない異様な言葉だった。モロボシ隊長は鍵穴からのぞいてみた。すると中では星人が会議をしていた。次にゲンものぞいた。

2人は顔を見合わせて気づかれないように部屋から離れた。

「星人です。どうしてここに。」ゲンは言った。

「それはわからないが、危険だ。ここを脱出しよう。」モロボシ隊長は通信機を取り出した。

「だめだ。通じない。ゲンは一足早く外へ出て車を準備してくれ。私はアンヌたちを呼んでくる。」

ゲンはうなずくと出て行った。

モロボシ隊長はドクターアンヌたちの部屋へ行った。ノックしてドアの外から静かに何度も呼んでみた。

「アンヌ、アンヌ。起きてくれ。」

するとドアが開いた。

「どうしたの。」

「落ち着いて聞いてくれ。この屋敷に星人がいる。通信機は使えない。すぐに脱出する。」

起きてきたシラカワ隊員が聞いた。

「この家の方はどうするんですか。」

「執事の中川は星人だ。お嬢さんはわからない。とりあえずここを脱出する。」

3人は部屋を出て、ゆっくり玄関の方に向かった。近くまで来たとき、後ろから声をかけられた。

「どこにいらっしゃるのですか。こんな夜に。」後ろに執事が立っていた。

「ええ、ちょっと外の風に当たりたいなと思って。」ドクターユリは驚いて、しどろもどろ答えた。この執事は星人だと思うと、ぞっとしていた。

「外は危のうございますよ。さあ、お戻りください。」執事は言った。モロボシ隊長はひそかに飛び掛かろうとしていた。すると背後から星人が現れて、3人を次々に撃った。ショック銃だったらしく、3人は気を失ってその場に倒れた。

(ゲン、やられた。お前だけでも逃げろ!)モロボシ隊長の倒れる前に送ったテレパシーをゲンは受け取った。ゲンはあわてて車に飛び乗り、発車させた。その様子を星人たちは見ていた。

「まずい。逃げられた。宇宙船で追うのだ。ここから帰すな!」

屋敷の上に隠れていた宇宙船はゆっくりと上昇すると、なめらかに飛んで行った。

 

ドクターユリが気を取り戻した。横にシラカワ隊員が倒れていた。ふと見上げると目の前に星人が立っていた。

「あなた、中川ね。」

「そうです。これが私の本当の姿です。」星人は言った。

「私たちをどうするつもりなの。」

「しばらくお静かにしていただいたら危害は加えません。そのうちきちんとお帰しします。」星人は答えた。

「信用できないわ。ダン、いやモロボシ隊長はどうしたの?」

「隊長さんは危険なので別の仲間が見張っています。あなたたちのことは仲間に頼んでいます。なんとかいたします。」

「何の目的で来たの?地球を襲うため?」

「私はバトラ星人です。この星を侵略するためかなり前から準備を進めてきています。私は地球人の生態を観察するために派遣されました。しかし、」星人はなつかしそうに言った。

「この家の旦那様は私にいろいろなことを教えてくださった。もしかしたら私が星人だと気づいていたのかもしれない。それでも優しく私に接してくださった。私は執事として仕えました。お嬢様にも。」

「じゃあ、あの子は星人じゃないの?」ドクターアンヌが聞いた。

「はい。お嬢様は心のきれいな方です。目が見えなくても、いえ見えないからでしょうか、あのように澄んだ心の持ち主はいらっしゃらないでしょう。私は心を洗われたような気さえしました。旦那様がお亡くなりになるときに私に頼むとおっしゃいました。私もこのままお嬢様にお仕えしようと心に決めていました。」

「・・・」

「しかし、やはりそれが終わる日が来てしまった。ここを侵略拠点としてお嬢様やこの屋敷を隠れ蓑にしてきましたが、侵略が実行に移される日が来たのです。でも私はそんなことはしたくなかった。このまま執事として生きていたかった。」星人は悔やむように言った。

 

宇宙船はゲンが乗った車を追跡していた。車を猛スピードで飛ばすが追いつかれつつあった。宇宙船が光線で車を攻撃し始めた。ゲンはハンドルを右や左と切って避けていた。しかし1発が車に当たってひっくり返った。そして崖から転がり落ちたとき、ゲンは変身した。

レオは宇宙船にハンドビームを撃った。かろうじてよけて光線を発射した。レオはそれを受けて反射して返した。宇宙船に当たり墜落していった。しかし宇宙船が爆発して落ちた後から宇宙怪獣バークが現れた。この怪獣を使って侵略を開始するつもりだった二かもしれなかった。

怪獣が咆哮しながらレオに向かってきた。レオは怪獣を受けとめた。そして投げ飛ばした。そして起き上がろうとするところに近づいた。怪獣は両腕から電撃をレオに放った。レオはしびれて動けなくなった。そこを怪獣はパンチを繰り出した。レオは倒れた。怪獣は馬乗りになって打撃を加えた。ダメージのためカラータイマーが点滅し始めた。

レオは体を回転させると何とか抜け出した。そしてキックとパンチを放った。怪獣は苦しむがまた電撃を放った。これをレオはエネルギー波で受け止めて怪獣に返した。怪獣は動けなくなった。レオはすこし離れてエネルギー光球を放って怪獣を倒した。

 

屋敷の中が騒然としていた。宇宙船がやられて、しかも怪獣までが倒された。地球を守る赤い巨人が屋敷に向かっているようだった。

「宇宙船で脱出するぞ。」星人たちは屋敷内を走り回っていた。

ドクターユリたちがいる部屋に別の星人が急に入ってきた。

「緊急事態だ。脱出するぞ。おまえも来い。」その星人は言った。

「それならこの人たちを逃がしてあげないと。」執事の星人は言った。

「いや。この場で殺す。」銃を抜いた。

「キャー」ドクターユリが叫んだ。その叫びにシラカワ隊員が目覚めた。目の前の恐怖のために震えていた。

「やめてください。」執事の星人が銃をつかんで止めた。

「何をする。」もみあいになり銃が暴発して、執事の星人は倒れた。

「今度こそ。」あらためて銃を向けた。そのときドアからモロボシ隊長が飛び込んできて、星人に体当たりを食らわせた。何とか自力で脱出したようだった。星人は銃を落として倒れた。その銃をシラカワ隊員が拾って星人に向けた。星人はあとずさりしながら部屋を出ると逃げて行った。

ドクターユリが執事の星人に寄って行った。

「しっかりして!」

「いや、もうだめでしょう。アンヌさん、あなたにお願いがあります。お嬢様の目を治してください。私の目を移植すれば見えるようになります。」星人は言った。

「いや、治らないわ。そんな簡単じゃないのよ。」

「いいえ、バトラ星人の目は特殊です。再生能力と適応力が高いのです。私の目を移植すれば必ず治ります。私は地球人の体や構造、生理などいろいろと調べました。あなたなら必ずできます。」星人は必死に頼んだ。

「そういえばお嬢さんは。」モロボシ隊長が言った。

「お嬢様には危険が及ばぬように、安全な部屋にお連れしています。ここのインターホンでお話をさせてください。」星人は言った。

ドクターユリは星人を抱き起してインターホンを渡した。

「お嬢様。ご機嫌はいかがですか。中川です。」

「どうしたの。今日は。」

「申し訳ありません。急なことでして。お嬢様の手術が決まりました。これで見えるようになります。すぐに迎えの方がいらっしゃいます。」

「中川は来てくれないの?」

「申し訳ありません。すこし仕事を残しておりまして。お嬢様が入院中は病院の方がお世話をしてくださいます。誠に勝手ですが、私はその間、お休みをいただきたく思います。世界中を旅して美しいお花を集めてまいります。お帰りになったときは屋敷の庭をきれいなお花でいっぱいにしておきます・・・。」星人は銀色の目から涙を流していた。もう死が近づいているようだった

「どうしたの、中川。」インターホン越しに少女は何か異変を気づいたようだった。

「いいえ。どうもありません。うれしくて泣いているだけでございます。」

ドクターユリには星人の恐ろしい顔が優しく見えていた。

 

数日後、病室でドクターユリが少女の眼帯を外していた。ゲンとシラカワ隊員も来ていた。

「ゆっくり、目を開けてごらん。」ドクターユリが言った。少女はゆっくり目を開いた。銀色の目が開かれた。最初はぼんやりと、しかし徐々にしっかりと見えてきた。

「見える。見える!」少女は嬉しそうに喜んだ。

「よかった。よかった。」ゲンとシラカワ隊員も一緒に喜んだ。

「見えるわ。中川にも教えたい。どこにいるの?」少女は聞いた。

ゲンもシラカワ隊員も答えられなかった。ドクターユリが横から答えた。

「中川さんはまだ旅をしているの。ほら、これが中川さんよ。」家族や使用人が写っている写真の一人を指した。

「いいえ、この人は中川じゃないわ。私には感じていたの。中川は怖い顔をしているのよ。でも心はずっと優しい人だったの。」少女は銀色の目を輝かしていった。