新ウルトラマンレオ

別世界のウルトラマンレオの物語

第1話 地球壊滅前夜

これは故郷を追われて地球に流れ着いた一人の異星人が、凶悪な星人や怪獣と戦い、宇宙の平和を守るウルトラマンとして悩み苦しみながら成長していく物語である。

 

宇宙にエメラルドのようにきらめく地球。幾多の生命が生まれ、繁栄しているこの星に、今、危機が迫ろうとしていた。

突如、現れた一つの大きな物体が宇宙の静寂を破った。それは光の尾を引きながら宇宙空間を切り裂くように飛んで行き、やがて転がるように地球に落下していった。

 

MAC司令室にアラートが鳴り響いた。大きく正面の自動ドアが開き、モロボシ隊長が現れた。彼は足早に入って来ると、緊張した面持ちでオペレーターに尋ねた。

「状況は?」その声には力強さがあった。

「隊長、警戒衛星からの警報です。謎の物体が大気圏に突入し、地上に向かっています。」オペレーターのシラカワ隊員が振り返って答えた。

4人の隊員も司令室に現れると、モロボシ隊長の後ろに集まった。

モロボシ隊長はモニターを見ながら、

「各隊の位置は?

「各宇宙ステーションからでは間に合いません。」

モロボシ隊長が振り返り、隊員たちに力強い声で命令した。

MAC出動!」

「はいっ。」隊員たちは勢いよく答えると、ヘルメットを手にもって司令室を出て行った。

 

そのころ、砂浜の海岸で空手道場の朝稽古が行われていた。晴天の下、「エイ、エイ」と10人ほどの小学生と1人の青年が突きを繰り返していた。それを師匠が歩きながらやさしく見守っていた。

ふと青年だけの耳に、聞き覚えがある異音が聞こえた。青年は急に突きをやめると上空の一点を見つめた。その目には激しい動揺が見えた。その脳裏には過去の記憶の断片がよみがえっていた。それは自然を破壊する竜巻だった。彼は恐怖に顔をこわばらせると、

「あれが・・・あれがくる。ここにも・・・」とつぶやいた。

青年の突然の異変に師匠は驚いて、彼のそばによると

「ゲン、どうかしたのか?」と心配そうに尋ねた。ゲンと呼ばれた青年は師匠に向かって不安そうに言った。

「先生、ここから離れた方がいいです。いや、すぐに避難しましょう。危険が迫っています!」

そのときかすかに上空が光った。何かが起きると感じた師匠は子供たちに

「みんな、すぐに山の方に避難するぞ。」と大声で言った。そしてまだ不安そうに上空を見つめる青年の肩を叩くと、

「ゲンはみんながはぐれないように後ろから見てくれ。逃げるんだぞ!」念を押すように言った。

 

マックホーク1号と2号が基地から出撃した。1号機にはモロボシ隊長、操縦するアオシマ隊員と分析機器を担当するカジタ隊員が乗りこんだ、2号機にはクロダチーフとアカイシ隊員が乗った。モロボシ隊長が通信機で基地と交信した。

「物体の落下位置は?」

東京湾の海岸近くです。位置をデータで送ります。」

マックホーク2機は並んで現場に急いだ。

 

海岸近くの海では大きな物体が海面にぶつかり、大きな波を立てた。しばらく水しぶきで何も見えなかったが、すこしずつ姿が現れた。大きな角をもつ巨大な宇宙怪獣だった。

「グオィ。」と大きくうなり声をあげると、海岸に上陸しようと歩き出した。空には雲が広がり始めた。

マックホーク2機が海岸に到着した。隊員たちが肉眼で怪獣を確認する前から、モロボシ隊長にはその姿が見えていたようだった。彼は心の中で考えていた。

(あれは宇宙怪獣ギラス。多くの惑星を壊滅させた怪獣だ。なぜここに?)

「隊長、前方に怪獣です。」操縦席のアオシマ隊員が言った。

Lクラスの宇宙怪獣とおもわれます。MACのデータにはありません。上陸を目指して進んでいます。」後席のカジタ隊員が言った

「攻撃だ。上陸を阻止する。」モロボシ隊長はそう言うと、2号機に通信した。

「チーフ、これより2機で前方の怪獣を攻撃する。上陸させるな。」

急降下した2機のマックホークから次々とミサイルが発射された。怪獣や海面に当たって大きな爆発が数回起こった。

「グオィ、グオィ。」怪獣は一瞬ひるんだが、大きな角から衝撃波を発射した。あわてて2機のマックホークは旋回して避けていった。

 

師匠は子供たちを連れて小高い山に向かっていた。青年は子供たちがぐれないように、後ろを歩いて見守っていた。街中では逃げ惑う人たちで大混雑して、押し合いへし合いをしていた。中には押されて転んでしまった人もいた。青年はその人を助け起こした。

「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます。大丈夫です。」

「気をつけてください。」青年は笑顔で言葉をかけた。その時、またあの恐ろしい音が青年の耳に入った。彼は一瞬、ビクッとして体を急に止めた。それから海の方を振り返った。彼の目には何かが見えているようだった。再び彼の脳裏にあの地獄のような記憶の断片が浮かんだ。それは大きな竜巻が周囲の物を破壊する光景だった。木々も地面も巻き上がり、建物が吹っ飛んでいった。そしてその後には何も残ってはいなかった。その地獄のような場面の記憶が、目の前に見える光景と重なっていた。青年はじっと海の方を見ていた。

「ゲン、いけない。そっちを見るな。逃げるんだ!」師匠は叫んだ。しかしその声は青年には聞こえていなかった。青年は急に何かにとりつかれたように海に向かって走っていった。

「行くな、ゲン! ゲーン!」師匠の声が背後で響いていたが、もはや青年の耳には届かなかった。

 

2機のマックホークは攻撃を続けた。しかしその攻撃は怪獣には当たらず、ミサイルはすべてはね返されていた。怪獣はその周囲に張り巡らせた竜巻で守られていた。その中にうっすらと見える怪獣が角を光らせて衝撃波を飛ばして、マックホークを攻撃していた。

青年は海岸に出て来ると、その状況をみて立ちすくんだ。

また彼の昔の記憶の断片がよみがえった。咆哮して角を光らせる怪獣が竜巻ですべてのものを破壊し尽くす、故郷を地獄に変えた光景が青年を戦慄させた。

あいつだ。あいつがここにも来た・・・。」震えながらつぶやいた。

 

マックホークの攻撃は通用しなかった。

(このミサイルではあの竜巻バリアは破れない。どうすればいいのか?)

モロボシ隊長は考えた。ふいに2号機のクロダチーフから通信が入った。

「このままではらちがあきません。もっと接近して攻撃します。」モロボシ隊長は、

「よせ、危険だ!」と返したが、2号機は怪獣に近づいていった。引き返えさせるのにはもう遅かった。

アオシマ、援護しろ。」モロボシ隊長は言った。アオシマ隊員が操縦桿を押し込んだ。上空の1号機は急降下して怪獣に援護のミサイルを発射した。2号機は怪獣に近づいてミサイルを撃ち込もうとしたが、2号機は激しく振動した。

「うむむ。」クロダチーフが操縦桿を押さえて態勢を整えようとしたが、2号機は竜巻の気流でバランスを崩して操縦不能になっていた。そこに怪獣が放った衝撃波が命中した。

「チーフ!」

アオシマ隊員が叫んだ。2号機のクロダチーフとアカイシ隊員は脱出しようとしていたが、怪獣は衝撃波をさらに浴びせようとしていた。それを阻止しようと、1号機はさらに真上からミサイルを撃った。それは竜巻バリア内の怪獣の周囲を爆発させた。怒った怪獣は咆哮すると、角を光らせて1号機に向けて衝撃波をみだれ打った。

その間に2号機の2人の隊員は機を捨てて脱出できたようだ。しかし多数の放たれた衝撃波の一発が1号機の後部に命中してしまった。操縦不能になった1号機でモロボシ隊長は叫んだ。

アオシマ、カジタ脱出しろ!」

2つの座席が射出されたが、モロボシ隊長は1号機の向きを怪獣に向けた。

そして胸からウルトラアイを取り出し、目に当てた。

「ジュワッ」

1号機は竜巻にぶつかってはね飛ばされた。しかし怪獣の前にはウルトラセブンが現れた。

 

「セブン、ウルトラセブンだ!」青年はつぶやいた。そして落ち着きを取り戻した。ウルトラセブンならこの地球を怪獣から必ず守ってくれると彼は信じていた。

 

構えをとるセブンに怪獣は竜巻バリアを解いた。そしてつかみかかってきた。力では押され気味のセブンであったが、体をひねり怪獣を投げ飛ばした。倒れた怪獣に馬なりになって攻撃するセブンであったが、角が光り衝撃波で体を飛ばされた。

怪獣は立ち上がり、竜巻バリアを再び身にまとった。セブンは体当たりしたが竜巻にはね飛ばされた。セブンは起き上がると慎重に構えながら、エメリウム光線を発射した。しかし竜巻バリアを破ることはできない。今度は一歩下がって右膝をついてアイスラッガーを投げた。しかしこれも竜巻バリアにはね返されて戻ってきた。驚いてたじろぐセブンに、竜巻の中で角が光り衝撃波が向かってきた。まともに受けたセブンは、後ろに倒れこんだ。

その時だった。暗天の雲の中から黒い星人が現れた。海面に降り立った星人は胸を張って、倒れているセブンをにらみつけた。

 

ゲンは目を見開いて思わず言った。

マグマ星人!」

ゲンの顔は蒼白になった。昔の記憶がさらによみがえった。

破壊された故郷の星で、1人の赤い巨人がマグマ星人に戦いを挑んだ。しかし相手にはならなかった。何度も殴られて、よろけたところを投げ飛ばされた。立ち上がったところを蹴られてひっくり返った。倒れた体を何度も足蹴にされて、巨人は立ち上がることはできない。やがて動かなくなった。

脳裏に浮かんだ地獄のような情景に、ゲンは目の前の戦いを直視できないでいた。

 

竜巻バリアを解除した怪獣がセブンに向かっていった。起き上がってふらふらしたセブンにパンチを繰り返した。膝をつくがパンチする手を受け止めた。そして体を中に入れ怪獣を投げ飛ばそうとした。しかし背後からからマグマ星人のキックが入った。再びセブンは水の中に倒れこんだ。その右足を怪獣がつかみひねり上げて投げ飛ばした。そして立ち上がれないセブンを後ろから羽交い絞めに抱え込んだ。

マグマ星人は右手を鋭いサーベルに変えた。大きく右腕を振り上げると、セブンの胸を貫こうとした。

 

「あ、危ない!」

セブンの危機を目の前で見たゲンは思わず体が動いた。天に向かって右手を伸ばした。その右手からは光がきらめきゲンを包み込んだ。それが急激に大きくなり、やがて赤い巨人となった。ウルトラセブンマグマ星人、怪獣、それぞれが驚いてその赤い巨人に目を向けた。

赤い巨人は構えた。そしてすぐにジャンプして空中で1回転すると、セブンをねらうマグマ星人に飛び蹴りを浴びせた。マグマ星人は不意の攻撃を受けて吹っ飛び、海の中に倒れこんだ。

赤い巨人は再び構えた。目の前にはマグマ星人、後ろにはセブンを羽交い絞めしている強力な怪獣がいた。はたして彼はマグマ星人と怪獣から地球を守ることができるのだろうか。