新ウルトラマンレオ

別世界のウルトラマンレオの物語

第4話 倒れたゲン

宇宙船が煙を引いて地球に落ちてきていた。マックホーク1号がそれを見守っていた。

「こちら1号機。宇宙船は故障しているようです。呼びかけましたが応答ありません。このままでは墜落します。」アオシマ隊員が基地に通信した。

「そのまま追跡してくれ。」基地のモロボシ隊長が返した。

宇宙船はそのまま地上に墜落していった。大きな爆発を起こして煙が辺りを覆いつくした。宇宙船はバラバラになったが、何か動くものが見えた。アオシマ隊員はそれがよく見えないので、目を細めてじっと観察していた。やがて煙が晴れた。そこにはガスを吐いている怪獣の姿があった。

 

そこは小さな町の近くだった。怪獣はガスを吐いて咆哮していた。町は大混乱となり、人々は逃げ惑っていた。しかし怪獣のガスが流れてくるとバタバタと苦しそうに倒れていった。

「こちら1号機。怪獣は毒ガスを吐いている模様。町の人々が倒れています。救援をお願いします。」

「わかった。1号機。怪獣を攻撃。これ以上、町に近づけさせるな。」モロボシ隊長が命令した。1号機は旋回すると、怪獣の正面に出た。そして急降下しながらミサイル攻撃を行った。怪獣の周りで爆発が起きて、怪獣が咆哮した。そしてさらにガスを吐きながら、1号機を追いかけて行った。

 

4号機にマックロディーと救急車を乗せてくれ。医療部員も同乗。すぐ用意してくれ!チーフとアカイシは2号機で現場に向かってくれ。カジタとゲンはいっしょに来てくれ。」モロボシ隊長はそう言うとヘルメットをもって格納庫に向かった。クロダチーフとアカイシ隊員とカジタ隊員、ゲンもその後に続いて司令室を出て行った。

格納庫では4号機の準備が進められていた。整備員の誘導で次々に車両が積み込まれていった。

「あとは医療部員だけです。メディカルセンターからすぐ駆け付けてくると思います。」整備員がモロボシ隊長に言った。

「わかった。」モロボシ隊長はそう言うと4号機に乗り込もうとした。その時、やっと医療部員が到着した。早足で近づいてくる人を見てモロボシ隊長は足を止めた。

先頭を歩く女性が微笑みながらモロボシ隊長に話しかけた。

「ダン、私が行くわ。現場に出ることは久しぶりだからよろしくね。」

モロボシ隊長はややどぎまぎしたように言った。

「アンヌ、君が来てくれたら助かる。宇宙からの怪獣が吐き出す未知のガスだ。十分に気をつけてくれ。」モロボシ隊長はその女性を4号機に案内した。

そのやりとりをゲンは不思議そうに見ていた。

「誰なんですか。あの人は?隊長の知り合いですか。」ゲンはカジタ隊員に訊いた。

「ドクターユリ・アンヌ。メディカルセンターの医療部長だ。宇宙生物や星人の体について研究している。隊長と昔からの知り合いらしい。」

「そうなんですか。」ゲンは言った。

ドクターユリが4号機に乗り込もうとした。その時、ゲンをじっと見ていたようだった。

 

4号機が現場に到着した。マックロディーや救急車が下ろされて、倒れている人々の救助に向かった。MAC隊員の服とヘルメットは元々、ガスや微生物から防護できるようになっており、現場に行っても問題はなかった。医療部員は分厚い防護服を身にまとっていた。倒れた人々を次々に救助して救急車に乗せていった。

怪獣は1号機の攻撃で何とか足止めができていたが、倒すまでには至らなかった。怪獣はなおもガスを吐いて暴れていた。やがてミサイルがなくなった1号機は引き上げて行った。不思議と1号機は機体が不安定そうに見えた。今度は2号機が代わって怪獣を攻撃した。

モロボシ隊長とカジタ隊員はマックロディーで周囲を警戒しながら、ガスの分析や周囲の状況の調査を続けていた。

(あれは?)モロボシ隊長は誰かが倒れているのに気付いた。地球人ではなく星人のように思えた。急いでマックロディーを停めると倒れている星人に近づいていった。宇宙船の墜落で全身に傷を負っており、もう虫の息だった。

「おい、しっかりしろ。」

モロボシ隊長は助け起こすと、その星人は最後の力を振り絞って話し出した。

「私はギリス星人だ。危険な怪獣を隔離するための移送中に宇宙船が故障してしまった。逃げ出した怪獣がガスを吐いて暴れているだろう。君たちにはすまないことをした。一刻も早く怪獣を倒してくれ。そうしないとこの星は滅びる。怪獣の吐くガスで生物も機械もすべてやられてしまう。中和ガスさえ作れれば・・・」星人はそこで息を引き取った。

「隊長。」カジタ隊員が声をかけた。

「うむ。星を壊滅させるほど恐ろしい怪獣らしい。早く中和ガスを作らなければ。戻るぞ。」2人はマックロディーに乗り込むと来た道に戻っていった。

 

2号機は怪獣の吐くガスが漂う中でミサイル攻撃を続けていたが、クロダチーフは徐々にエンジンのパワーが落ちてきているのに気付いた。

「おかしい。アカイシ。エンジンが不調だ。どうしてだ。」

「わかりません。パワーが落ちてきています。このままでは墜落します。」アカイシ隊員が言った。

「やむをえん。着陸する。」クロダチーフは2号機を近くに着陸させた。

 

ゲンは4号機に残って、病人を収容する手伝いをしていた。ふと遠くを見ると、2号機がいなくなって怪獣は再び町に近づいてきた。まだ倒れた人々の救助は終わっていなかった。

「このままではみんな危ない。」

ゲンはマックガンを抜いてとび出して行った。ゲンの放つマックガンが怪獣に当たり、小爆発を起こした。怪獣は怒ってゲンに向かってきた。ゲンは怪獣を町から引き離そうとして、怪獣を引き付けるように逃げていった。しかし怪獣の進むスピードは予想外に速く、ゲンは踏みつぶされそうになった。あわやというところで、ゲンはレオに変身した。

レオは怪獣に向かって行くとキックとパンチを食らわせた。怪獣はダメージを受けて倒れた。レオは馬乗りになってさらに打撃を加えようとした。その時、怪獣はガスをレオに吐きかけた。それはレオの顔にもろに直撃して、レオは首を押さえて苦しんだ。そこになおも怪獣はガスを吐きかけた。レオは片膝をつき、また手をついて倒れる寸前にまでになった。

4号機に戻ってきたマックロディーのモロボシ隊長はその状況を見て、

(これはいかん。何とかしなければ。)と思った。そしてカジタ隊員に言った。

「カジタはすぐに出発の準備をしてくれ。私はマックロディーで怪獣を攻撃する。」そしてカジタ隊員を降ろすと、モロボシ隊長はマックロディーで怪獣に向かって行った。しかし近づいていくとガスのためか、エンジンの調子がおかしくなってきていた。目の前には怪獣に踏みつけられているレオの姿があった。モロボシ隊長はマックロディーを降りた。ガスのせいで呼吸が少し苦しくなっていたが、

(今、助けるぞ!)モロボシ隊長は腕をクロスさせるとサイコキネシスを使った。すると怪獣は動きを封じられた。何とか逃れようと暴れてやっとその力から抜け出すと、山の方に逃げていった。

 

4号機に倒れた人々が収容された。不時着した2号機のクロダチーフやアカイシ隊員も戻ってきた。カジタ隊員は出発の準備をして、マックロディーの帰還を待っていた。

「ガスを吸った人の中には症状が重い人もいるわ。すぐに医療センターに戻って!」ドクターユリが4号機のコックピットに入って来た。そこにモロボシ隊長がいないのに気づいて、

「ダン、いやモロボシ隊長は?」と尋ねた。

「その隊長の乗ったマックロディーを待っているところです。」カジタ隊員がそう答えた。そのとき、やっとマックロディーが戻ってきた。そこにはモロボシ隊長とガスを吸ってぐったりとなったゲンの姿があった。

「ちょっとどいて!」ドクターユリがゲンの元に駆け寄った。状態を見るなり青ざめて言った。

「非常に危険な状態だわ。大量にガスを吸っている。」

 

ゲンはメディカルセンターのベッドに寝かされていた。様々なモニターが全身につけられていた。

外の観察室にはドクターユリがカルテに目を通していた。そこにモロボシ隊長が入ってきた。モロボシ隊長を見てドクターユリが言った。

「オオトリ君はかなり悪いわ。だんだん生命機能が落ちてきている。」

「アンヌ、ゲンを救ってくれ。ここに怪獣のガスのデータを持ってきた。中和ガスを作ってほしい。」モロボシ隊長がデータカードを手渡した。

「ありがとう。でもうまくいくかどうか・・・」

「いや、君ならきっとできる。頼むぞ。ゲンや他の人々の命がかかっている。いや地球の運命もかかっていると言ってもいい。君だけが頼りだ。」モロボシ隊長は言った。

 

怪獣が再び動き出して別の町の方に向かっていた。今度はガスを大量に周囲に吐いて進んでいるので、マックホークでも簡単に近づくことができなかった。MACは町の人々を誘導して避難を急がせていた。

「隊長、避難にはもう少し時間がかかります。」現場のクロダチーフから通信が入った。

「まだ中和ガスは完成していない。できるだけ速やかに避難を行うんだ。怪獣はさらにそっちに接近している。あと1時間で町に着く。」モロボシ隊長は通信を返した。

「とても間に合いません。」クロダチーフは伝えた。

「ううむ。仕方がない。1号機に攻撃させる。」モロボシ隊長は1号機のアオシマ隊員を呼び出した。

アオシマ。町の人の避難には時間がかかる。1号機で攻撃して時間を稼ぐんだ。」

「了解。」アオシマ隊員は通信を返した。しかし離れた場所を飛んでいても、ガスの影響を受けていて1号機の飛行は不安定だった。それなのにさらに接近して攻撃するのはかなり難しいと思われた。しかし何とかしなければならない状況だった。

1号機の飛行は安定しないが、このままでは町が危ない。とにかくできるだけのことはしよう。避難が完了するまでは。)アオシマ隊員はそう思うと1号機を怪獣に接近させた。

 

メディカルセンターでは、ドクターユリをはじめ研究員が中和ガスの製作にかかっていた。焦る気持ちを押さえながら何度も何度も試験管を振り、目の前の怪獣のガスと格闘していた。そして数十回目の注射器の中和ガスを注入すると、怪獣のガスの色は消えた。

「できた。できたわ。」ドクターユリは額に汗をにじませて、ほっとしていた。しかしまだ課題は多かった。

(これを人に入れても大丈夫かを調べるのにはまだまだ時間がかかるわ。でも状況はそれを許さない。特にオオトリ君は危ない状態だから、一刻も早く投与しないと。もしこの中和ガスに重大な副作用があっても、オオトリ君なら耐えられるわ。彼は並みの人間でないから・・・)そう思うと中和ガスを入れた注射器をもってゲンの元に行った。ゲンの病態はさらに悪化しており、今にも息が止まりそうな状態だった。ゲンは苦しみながらもまだ意識はあった。

「これは中和ガスよ。しかしまだ試験は済ませていない。だから何が起こるかわからないわ。でもあなたを助けるのには今すぐにこれを打つしかないの。あなたは普通の人間じゃない。あなたなら耐えられるはずよ。オオトリ君、いいわね。」ドクターアンヌが言った。ゲンはそれを聞いて静かにうなずいた。ドクターユリはゲンに中和ガスを注入した。するとゲンはベッドの上であばれて苦しみだした。

「がんばって。しっかりして!」ドクターユリがゲンを励ました。ゲンは苦しんでいたが、一瞬、体をのけぞらせると急に静かになった。心臓が止まったようだった。

(駄目だったの!)ドクターユリが驚いて蘇生術を始めようとした。するとゲンの心臓は再び動き出した。体中の怪獣ガスは消え、健康な状態に戻っていた。ゲンはすぐに目を覚まして半身を起こした。

「成功だわ。よかった・・・」ドクターユリは涙をにじませていた。

「ドクター、ありがとうございます。治りました。」ゲンはそう言うとベッドから起き上がり、置いてある戦闘服に手をのばした。

「どこへ行くの!そんな体で。」ドクターアンヌが驚いて言った。

「現場に戻ります。怪獣はまた町を襲うかもしれませんから。」ゲンはさっさと着替えると、ドクターユリが止める間もなく病室から出て行った。

「あ、仕方がないわね。本当に無茶なんだから。誰かさんとそっくりね。」ドクターユリはあきれたように言った。

 

1号機は怪獣に近づいてミサイル攻撃を行っていた。飛行は安定しなかったが、なんとかアオシマ隊員がだましだまし操縦していた。怪獣はミサイルに苦しみながら、さらに大量のガスを吐き出した。それは1号機を直撃した。

「うわー!」1号機のエンジンは完全に止まり、錐もみ状態になって真っ逆さまに落下しはじめた。地上に衝突して粉々になると思った瞬間、飛んできたレオが1号機を受け止めた。間一髪間に合った。そしてレオはゆっくり1号機を降ろすと、怪獣に向かっていった。

怪獣はまたガスを吐き始めた。中和ガスを打ったとはいえ、さらなるガス攻撃はレオにダメージを与えていた。怪獣にパンチやキックで攻撃していたが、また徐々に呼吸が苦しくなってきていた。片膝をついたところを怪獣が足蹴にした。レオは倒れて転がっていった。ダメージのためカラータイマーが赤く点滅し始めた。

しかしレオは気力でなんとか立ち上がり、右手を大きく上にあげてエネルギーブレスレッドを光らせた。するとエネルギーの放電が起こり、強烈な風を巻き起こした。そして周りのガスを吹き飛ばしていった。ガスが晴れていく状況に、怪獣は慌ててまたガスを吐こうとした。そこにレオはエネルギー光球を放った。怪獣はどーんと倒れて動かなくなった。

 

ゲンはメディカルセンターに戻ってきた。怪獣のガスをまた吸ったため、中和ガスの治療をまた受けるためだった。今回は調整してあるため、苦しむことはなく症状は軽快した。

「これでよしと。」ドクターユリが言った。

ゲンには一つ気にかかっていることがあった。ドクターユリは自分の正体を知っているのではないかと。ゲンは思い切って尋ねてみた。

「ドクター。最初の治療の時、僕が普通の人間じゃないって言いましたよね。何のことなんですか?」

「ふっふ。私は何でも知っているの。」ドクターユリはいたずらっぽく笑って、それ以上、答えなかった。