新ウルトラマンレオ

別世界のウルトラマンレオの物語

第6話 怪獣ロン

東京近郊に怪獣が現れた。ビルを破壊して暴れまわっていた。通報を受けてMAC基地からマックホーク1号と2号が発進した。マックロディーもアカイシ隊員とゲンを乗せて出動した。

マックホークが現場に着くと、4つ足の怪獣がビルに体当たりを食らわせて壊しているのが、上空から見えた。

「怪獣を確認。攻撃準備。」1号機のモロボシ隊長が2号機に通信した。

2号機、了解。」2号機のクロダチーフが答えた。

「攻撃開始。」モロボシ隊長が言った。1号機と2号機が急降下しながらミサイル攻撃にかけた。しかし怪獣はそれでも暴れていた。近くのビルが次々に破壊されていった。

マックロディーも現場に到着した。ゲンはその怪獣の姿を見て驚いた。

(ロン、ロンじゃないか!)心の中で叫んでいた。

 

1号機と2号機からミサイルが発射され、爆発の中で怪獣が咆哮していた。怪獣は頭の部分から光線を出してマックホークを撃ち落とそうとしていた。2機ともそれを避けてミサイル攻撃をさらに続けた。怪獣は苦しそうに暴れていた。

マックロディーは停車して戦いの様子を見守っていた。

「俺たちの出番はないなあ。」運転席のアカイシ隊員が言った。

「え、ええ。」ゲンは答えたが、目の前の状況にアカイシ隊員の言葉は聞こえていなかった。ゲンの脳裏にはL77星でレオとロンが楽しそうに遊んでいる光景が浮かんでいた。心優しいロンはレオの友達だった。ペットの犬のようにレオに安らぎを与えてくれた。

目の前ではマックホークの攻撃は続いていた。

アオシマ、もっと接近してミサイルを浴びせろ!」モロボシ隊長が命令した。

1号機はさらに怪獣に近づいてミサイルを怪獣に発射した。怪獣の周りではさらに激しく爆発が起こり、怪獣は苦しそうな声を出した。ゲンはその光景を見ていることができず、目を背けていた。ゲンには怪獣ロンが悲しそうに泣いているとしか聞こえなかった。

無意識のうちにゲンはマックロディーを降りて、怪獣に駆け寄っていた。

「ゲン。おい、ゲン。どうしたんだ。戻ってこい。」アカイシ隊員が叫ぶがゲンの耳には達していなかった。ミサイル攻撃の中にゲンが飛び込もうとしていた。

「一体、どうしたんだ。」あわててアカイシ隊員が通信機をつかんだ。

「隊長。ゲンが怪獣に向かって飛び出して行きました。攻撃をやめてください。」急いで1号機に通信した。

「なに!ゲンが!」モロボシ隊長は驚くと、横にいるアオシマ隊員に言った。

「攻撃中止。上空で待機だ。2号機にも伝えろ。」そしてアカイシ隊員に通信した。

「アカイシ、ゲンを連れ戻せ!それまでマックホークは上空で待機する。」モロボシ隊長が強い口調で通信した。

「は、はい。」アカイシ隊員はマックロディーでゲンを追いかけた。

 

怪獣は煙と火の中で暴れて、周りの建物を次々と破壊していた。

「ロン、わかるか。レオだ。やめるんだ。」ゲンは怪獣に叫びながら近づいていった。その怪獣は紛れもなくロンであることが、ゲンにははっきりわかった。しかし怪獣はゲンを見ても激しく暴れていた。

「ロン、僕だ。わからないのか。友達のレオだ。ロン。」ゲンは両手を広げて話しかけた。怪獣はゲンを見て激しく咆哮した。

「ロン、おとなしくするんだ。」ゲンはさらに怪獣に近づこうとした。怪獣はゲンに襲い掛かろうとしていた。それでもゲンは怪獣に近づいていた。その前をマックロディーが横切るように走ってきて、ゲンの前で停車した。

「ゲン!何をしているんだ。危ないぞ。ここから離れるんだ!」アカイシ隊員が叫んだ。

「大丈夫です。あれは気の優しい生き物です。だから・・・」ゲンが言いかけた時、怪獣から光線が発射され、マックロディーに命中した。爆発するマックロディーからアカイシ隊員は転がるように脱出した。

「あ、アカイシさん。」ゲンが駆け寄った。アカイシ隊員は負傷したようだったがなんとか歩けるようだった。

「とにかくここから逃げるんだ。早くしないとマックロディーのようになってしまうぞ。」

「で、でも・・・」

「いいから来るんだ!」

アカイシ隊員はそう言うと、躊躇しているゲンを引っ張ってその場を離れた。そしてしばらく走ると、大きな建物の陰に入った。

「隊長、ゲンを引き離しました。」息を切らしながらアカイシ隊員が通信した。

「よし、攻撃を再開するぞ。」モロボシ隊長はそう言うと、再びマックホークで攻撃をかけようとした。しかしもうすでに怪獣は地下に潜って姿を隠してしまった。

「逃げられたか。」モロボシ隊長は悔しそうに言った。

建物の陰でゲンだけがほっとしていた。

 

MAC司令部ではゲンが隊員たちに叱責されていた。

「どうしてあんな真似をしたんだ。非常に危険だ。しかも怪獣を取り逃がしてしまった。このことが後でどんなことになるか考えたのか!」クロダチーフが怒りながら言った。モロボシ隊長は椅子に座ったまま腕を組んで、厳しい顔でゲンをにらんでいた。ゲンはうつむいて顔を上げることができなかった。

「何とか言ってみろ!どうしてこんなことをしたんだ!」クロダチーフはさらに言った。

「す、すいません。あの怪獣はそんな悪い奴には思えなくて。それに気が動転してしまって・・・」ゲンはそれだけしか言えなかった。

「気が動転していただと。お前のせいでアカイシはケガまでしたんだ。」アオシマ隊員がゲンの腕をつかんで大声で言った。

「す、すいません・・・」ゲンにはこれしか言えなかった。本当のことは絶対に言うことはできなかった。自分がL77星人であの怪獣が友達であったことなど言えるはずはなかった。ゲンのあまりにしょげた様子にアカイシ隊員はかわいそうになり、アオシマ隊員の手を放してやると、

「まあ、みんなそんなにゲンを責めるな。俺のケガは大したことはないんだ。俺だって気が動転することぐらい何度もある。特にゲンは入隊して日が浅いんだ。」とかばった。

「アカイシさん・・・」ゲンはそれ以上、言葉にならなかった。しかしクロダチーフたちの怒りはまだ静まっていないようで、まだ何か言いたげだった。そのやり取りを聞いていたモロボシ隊長が急に立ち上がった。

「アカイシが仲間をかばう気持ちはうれしい。しかしゲンが重大な過ちを犯したことは確かだ。怪獣への攻撃を中断させたこと、それで怪獣を取り流してしまったこと、また仲間の隊員を危険にさらしたこと、このことは許し難いことだ。ゲンには無期限の謹慎を命じる。ゲンは後で隊長室に来い!」それだけ言うと司令部を出て行った。クロダチーフたちは冷ややかにゲンを見ていた。

 

ゲンが隊長室に入ると、モロボシ隊長は腕組みをして立っていた。厳しい目でゲンを見ていた。

「ゲン、話してもらおう。一体何があった?」モロボシ隊長が訊いた。

「隊長。あの怪獣はロンです。L77星にいる心やさしい生き物です。L77星人にとってペットとも友達ともいえるような存在です。僕はあのロンと友達でした。ロンはそんな乱暴をする奴じゃない。」ゲンが言った。

「しかし、凶暴だったぞ。強力な光線まで出していたんだぞ。間違いじゃないのか。」

「いいえ、僕にははっきりわかるんです。たとえ巨大な姿になって暴れていても、見たことのない光線を出していても、あれが確かにロンです。でも何か訳があるのです。僕のことが分からなくなっているのもきっとそうです。そうに違いありません。」ゲンは言った。

「ふむ。だがもしあれがロンであったとしても、またどんなわけがあるにしても、町を襲う怪獣には撃退しなければならない。それはMACの使命だ。お前ならそれがわかるはずだ。」モロボシ隊長は静かに言った。

「・・・」ゲンにはそれがわかっていたが、心の中はまだ納得できなかった。モロボシ隊長はさらに続けた。

「故郷を失ったお前にとって、ロンは友達以上に存在だろう。しかしお前はもう地球人なのだ。オオトリ・ゲンとして生きていかなくてはならない。」

「隊長、それはわかっているつもりです。」ゲンは言った。

「あらためて言う。ゲン、任務に私情は禁物だ。だから謹慎にして今回の任務から外した。あの怪獣は我々だけで撃退する。いいな!」モロボシ隊長は念を押すように言った。

「は、はい。」ゲンは力なく答えた。

 

数日後、再び、町に怪獣が現れた。マックホーク1号と2号が発進していった。暴れている怪獣を見て、

「今度は逃さないぞ。」アオシマ隊員がつぶやいた。

モロボシ隊長はマックロディーで単身、現場に行った。現場近くで降りると、じっと怪獣を見ていた。到着したマックホークに気づかず、何か考えているようだった。なかなか攻撃命令が出ないので、しびれを切らしたクロダチーフが通信した。

「隊長、マックホーク到着しました。」

その声にモロボシ隊長ははっとしたが、気を取り直して通信した。

1号機、2号機、聞こえるか。攻撃開始だ!」

2機のマックホークからミサイルが発射された。次々に怪獣に当たり爆発を起こした。煙が立ち込める中、怪獣が咆哮して光線を放った。1号機と2号機はそれを旋回して避けて、再びミサイル攻撃を行った。

 

謹慎のゲンは基地の自室でベッドの上で横になっていた。周囲のあわただしい状況から、また怪獣が現れてマックホークが出撃したことがわかっていた。考えまいとしてもロンのことが気にかかって仕方がなかった。目を閉じると悲しそうにゲンに訴えかけているロンが見えた。

「ロン!」思わず声が出た。ゲンはいたたまれなくなって、急いで外に出ていった。そしてレオに変身すると飛んで行った。

 

怪獣はさらにミサイル攻撃を受けて苦しんでいた。

「もう少しでやっつけられるぞ。」アオシマ隊員が言った。その時、レオが上空から降りてきた。そして怪獣をかばうように、マックホークの前に立ちふさがった。攻撃をやめるように両腕を振っていた。

「赤い巨人!一体どういうつもりだ。」クロダチーフが叫んだ。

地上から見ているモロボシ隊員は、レオにテレパシーで話しかけた。

(レオ、やめろ。そこをどくんだ。)

レオは返事をしようとしなかった。怪獣を攻撃させないようにマックホークの攻撃を妨害していた。

それにもかかわらず、怪獣はレオの背後を光線で攻撃した。よろけたレオを後ろから体当たりをした。レオは前にどうっと倒れた。怪獣は頭部から光線を発射しながら、レオを踏みつけていった。ダメージのため、カラータイマーが点滅し始めた。

モロボシ隊長は走って近づくと、腕をクロスさせてテレキネシスを使った。しかしそれは怪獣全体ではなく、光線を発射していた頭部の一部に対してであった。力を振り絞って続けていると、その頭部の一部は浮き上がってはがれていった。それは巨大化して星人の姿になった。

「やはり、お前か。ベスドー星人!」モロボシ隊長は叫んだ。ベスドー星人がロンにとりついて操っていたのだった。ロンが光線を出したので、モロボシ隊長にそれを見抜かれてしまった。彼はその光線の出る部分にベスドー星人がとりついていると思っていた。

ベスドー星人は、まだ正気を取り戻していないロンを投げ飛ばすと、倒れているレオを何度も足蹴にした。レオは立ち上がれず、右手をのばして苦しがっていた。

その背後で投げ飛ばされたロンはようやく立ち上がった。その目には、友達のレオが凶悪な星人に足蹴にされている姿が映った。ロンはベスドー星人に体当たりをした。ベスドー星人ははね飛ばされて倒れた。そして唸り声を上げて星人を威嚇した。

ベスドー星人はゆっくりと立ち上がった。ロンはまた向かっていったが、今度は星人の光線に撃たれた。ロンは悲しそうな声を上げると、その場にばったりと倒れた。

レオはようやく立ち上がった。そして哀れなロンの姿を見て怒りが込み上げてきた。拳を握り締めてベスドー星人に向かって行くと、キックとパンチを激しく打ち込んだ。大きなダメージを追った星人は、後ろに下がって片膝をついた。そこにレオはエネルギー光球を放った。星人はもだえ苦しみながら消滅していった。

レオは倒れたロンのそばに行った。そして優しくロンを抱き上げると、そのまま空に飛んで行った。

 

数日後、ゲンは謹慎を解かれて司令部に戻った。

「やあ、ゲン。お帰り。」隊員たちは笑顔で迎えてくれていた。ゲンはみんなに頭を下げて言った。

「迷惑をかけました。これからしっかりします。またよろしくお願いします。」

「いいってことよ。お前の言う通り、あの怪獣は悪くなかった。悪い星人がとりついて操っているだけだったよ。でもあんなことはやめてくれよ。」アカイシ隊員が笑いながら言った。その時、ドクターユリが入ってきた。

「オオトリ君、犬の治療が終わったわよ。」抱きかかえた犬がゲンを見て嬉しそうに尻尾を振った。

「ありがとうございます。元気になってよかった。」ゲンは言った。

「でも、いいの。私が飼っても。」ドクターアンヌが訊いた。

「ええ、ぜひお願いします。ここで飼うわけにはいかないので。ドクターのところなら安心です。時々、顔を見に行きます。」ゲンは言った。

司令部のドアからモロボシ隊長が入ってきた。ドクターユリが抱いている犬を見た途端、えっと驚いた顔をした。あわててドクターユリに、

「アンヌ、ちょっと。」と手招きして隅の方に連れて行った。そして他の隊員に聞かれないように声をひそめて尋ねた。

「それ、わかっているんだろうね。ただの犬じゃないんだよ。」

「もちろんよ。ロンというのよ。こんなかわいい姿になるのよ。」ドクターアンヌは微笑みながら答えた。そしてロンに話しかけた。

「ねえ、ロン。」

「ワン!」ロンが答えるように吠えた。