新ウルトラマンレオ

別世界のウルトラマンレオの物語

第7話 恐怖!ツルク星人の刃

夜のさびしい街に酒に酔った男がいた。千鳥足であちこちふらふらしながら歩いていたが、ふと黒い影が走っていくのを見た。よく目を凝らしてみていると、遠くに歩いている人に向かって行くようだった。ぶつかると思った瞬間、悲鳴が聞こえた。

「うわー!」

人が倒れ、人影は別の方に走り去った。

「こりゃ、大変だ。」

男は助けを呼ぼうと携帯電話を取り出そうとしたが、それより前にあの人影が自分に近づいてきた。そして声を上げる間もなく、何かに貫かれて男は倒れた。その人影はあたりを確認するため振り返った。月明かりに浮かんだその姿は人間ではなかった。星人だった。

 

司令部ではカジタ隊員が説明していた。

「最近多発している切り裂き殺人の件です。警視庁から捜査協力が来ています。」

「これは警察の仕事だろう。」アオシマ隊員が言った。

「それが、犯人が人間ではないとの目撃情報があるようです。」

「じゃあ、お化けかね。それこそ担当違いだ。」アカイシ隊員が言った。

「星人かもしれないということです。凶器が鋭利でかなり大きなもので、一瞬で突き刺しているようで普通では考えられないそうです。」カジタ隊員は写真を示して言った。

モロボシ隊長は写真を見て顔色を変えた。目つきが鋭くなってその写真を見ていた。ゲンはそれに気づいた。

「確かに普通じゃない。隊長、どうしましょうか。調べてみますか?」クロダチーフが言った。

「そうだな。念のため調査するが通常の仕事もあるから、私とゲンだけで行く。」モロボシ隊長が言った。

「隊長みずから、ですか?」クロダチーフが言った。

「みんなは他の任務で忙しいからな。チーフ。あとを頼む。ゲン、行くぞ。」モロボシ隊長とゲンは司令室を出ていった。

 

マックカーでゲンはモロボシ隊長に聞いてみた。

「隊長、さっき写真を見たとき、急に目つきが変わりましたね。何か知っているんですか。」

「ああ、知っている。犯人はツルク星人だ。」

「ツルク星人?」

「そうだ。かなり凶悪な星人だ。宇宙の通り魔とも呼ばれている。」

「通り魔ですか。」

「星に侵入してそこの住人を串刺しにして次々と殺していくという、凶悪な奴だ。そればかりか巨大化して町中を破壊していくこともある。」

「一体、どうして?」

「理由などないのだろう。それが奴の生態かもしれない。それよりも非常に手ごわい相手だ。注意してかからないと危ない。」

「どんな奴ですか?」

「両手に刃を持っており、それで次々と切ったり刺したりする。スピードが速く、かわすのも難しいと言われている。」

「・・・」ゲンは絶句した。そんな危険な星人がいてしかも地球に来ているとは、考えるだけで恐ろしかった。

「私とゲンだけで調査するといったのはなぜだと思う?」

「地球人では危険だからですか。」

「そうだ。私やゲンなら奴の攻撃をかわせるかもしれない。」

モロボシ隊長は必死の覚悟だった。

 

星人が出没する地点は広範囲にわたっていた。しかしいずれも人通りが少ないところだった。マックカーを走らせているとき、2人は異様な足音を鋭敏な聴覚で聞いた。速いスピードで何かが動き回るような音だった。マックカーを停めて降りると、モロボシ隊長はゲンに目配せをした。そしてその音の方に駆け出した。

まさに星人が人に襲い掛かろうとしていた。

「そこを動くな!」モロボシ隊長はマックガンを構えて叫んだ。星人は一瞬止まった。振り向いたときにはっきり見えた。両手に大きな刃をもつ星人だった。星人はモロボシ隊長の方へ向かってきた。2人はマックガンを撃つが当たらなかった。信じがたいことにかわされているようだった。至近距離まで来て刃を振り下ろそうとしたとき、モロボシ隊長とゲンは左右に飛んで何とかかわした。地球人だったらやられていただろう。

ツルク星人は再び襲ってきた。今度はゲンを狙ってきた。優れた運動神経で何とかかわしていくが、とうとう壁際に追い詰められた。星人は獲物を追い詰めた狩人のようにゆっくりとゲンに近づいた。そして壁を背にしているゲン頭に向かって刃を突いてきた。危ないと思った瞬間、ゲンは何とかかわした。ツルク星人の右手の刃は頭の横の壁に突き刺さった。今度は左手でというとき、ツルク星人の動きが止まった。

ツルク星人の後ろには両腕をクロスさせたモロボシ隊長がいた。サイコキネシスでツルク星人の背後から動きを止めることができた。

(ゲン、今だ。星人を撃て!)テレパシーで伝えられた。しかしゲンがマックガンを撃つ前にツルク星人はサイコキネシスの網を抜け出した。そしてはるか彼方に逃げていった。

「すいません、隊長。」

「いや。恐るべき星人だ。サイコキネシスも一瞬しか効果がなく逃げられてしまった。」

額の汗を拭きながら言った。

2人がマックカーに乗り込んだ時、基地から通信が入った。

「巨大な星人が出現。街を破壊しています。」

「すぐに現場に向かう。チーフたちはマックホーク1号と2号で出撃。」モロボシ隊長は通信した。

 

ツルク星人は猛スピードで遠くまで逃げた後に、巨大化して暴れているようだった。

モロボシ隊長とゲンがマックガンで攻撃をかけるが、星人は両手の刃で防いでいた。

やがてマックホーク1号、2号が到着した。地上からモロボシ隊長が指示を与えた。

1号機、2号機。あまり星人に近づくな。距離をとって攻撃するんだ。」

ツルク星人は街の建物を破壊していた。1号機と2号機が上空からミサイル攻撃をかけた。するとツルク星人は急にスピードをあげて攻撃を避けた。星人の動きが速すぎて当たらないようだった。

「だめだ。ミサイルは避けられてしまう。レーザー攻撃だ。」クロダチーフが言った。

「了解。もう少し接近します。」アオシマ隊員は1号機をツルク星人の方に向けた。2号機も後から追っていった。2機はレーザー攻撃のためツルク星人にかなり接近していた。

「危ない!離れるんだ。」モロボシ隊長が叫ぶのと同時に、ツルク星人が急スピードで接近して飛び上がり、1号機と2号機に刃を振るった。ややかすった程度だったが、それでもダメージを受けて12号機とも不時着していった。

隊員たちは機を降りて脱出した。そこにツルク星人が両手の刃を光らせて迫っていた。隊員たちは慌てて後方に逃げた。

「あ、危ない。」

隊員たちの危機に、ゲンはレオに変身した。

レオが現れてもツルク星人は驚かなかった。ゆっくりと刃を前にして構えた。レオはエネルギーブレスレッドを光らせて、エネルギーソードを出して構えた。しばらくにらみ合ったあと、ツルク星人が速いスピードでレオに向かってきた。エネルギーソードを振り下ろしたが空を切った。ツルク星人の攻撃は避けられずに、刃を体に受けてしまった。

レオはいったん後ろに下がり、両手を頭の上でクロスさせてエネルギーを左手にも集めた。そして両手を下すと、やや短めのエネルギーソードの二刀流となった。そしてレオは両手のエネルギーソードを前に出して構えた。

またツルク星人が両手の刃を光らせて襲ってきた。レオは両手のエネルギーソードで防ごうとしたが、ツルク星人のスピードが上回っていた。レオは再び斬りつけられ、火花が散った。

倒れる間もなく、ツルク星人は立て続けにレオに向かってきた。レオは何とか防ごうとするが、素早いツルク星人に何度も刃の攻撃を受けてダメージを大きくなり、苦しそうに片膝をついていた。エネルギーブレスレッドを光らせてハンドビームを乱射したが、ツルク星人にかすりもしなかった。カラータイマーが点滅し始めた。

レオは全く手も足も出ない状態だった。反撃の糸口もつかめなかった。

「これはいかん。このままではやられてしまう。」モロボシ隊長は不時着した1号機に乗り込むと、ベータ号を切り離して発進させた。そして一直線にツルク星人の背後から向かって行くと、緊急脱出してベータ号を体当たりさせた。ツルク星人はレオの攻撃に気を取られていたのでベータ号に気付くのに遅れ、振り返ったときにはベータ号が体に衝突した。大きな爆発が起こり、ツルク星人は叫び声をあげた。

「グググ。」ツルク星人は胸の傷を押さえた。レオはエネルギーブレスレッドを光らせて、エネルギー光球を撃とうとしていた。

それを見てツルク星人は逃げていって闇に消えていった。傷は深かったが致命傷ではなかった。再び襲ってくることは十分に考えられた。今回は何とか撃退できたが、次回も撃退できるとは思えなかった。

地上に降りたモロボシ隊長は、

(このままではだめだ。何とかしないと・・・)厳しい顔で考えていた。

 

ゲンはモロボシ隊長に連れられて山中の滝に来ていた。流れが急で大きな流木が次々と落ちてきていた。ゲンはここに連れて来られた訳が分からなかった。

「隊長、どうしてここにきたのですか?」

「今のままではツルク星人に勝てない。おまえには特訓が必要だ。」モロボシ隊長は言った。

「特訓?」

「そうだ。あの滝の下で落ちてくる流木を手刀でたたき割るんだ。」

「そんなことができるんですか?」

「普通ではできない。しかしそれができればツルク星人と戦えるようになるはずだ。」

ゲンは恐る恐る滝の下に行った。流木がすごい勢いで落ちてきていた。

「さあ、やるんだ。」モロボシ隊長が言った。

滝の水の下では体の自由が利かない。落ちてくる流木を避けることさえも難しかった。それなのにその流木を叩き割ることなど不可能に近かった。ゲンはしばらくやってみたが、いつまでたっても上達することはなかった。

「隊長、できません。」ゲンは言った。

「いや、やるんだ。」モロボシ隊長は厳しく言った。

流木はゲンの体のあちこちに当たり、苦痛に顔をゆがめた。それが続くとゲンは痛みで倒れてしまった。モロボシ隊長は川に入ってゲンを起こした。傷を負ったゲンを見ても、

「まだまだだ。」と滝の方にゲンを押しやった。なおも流木が落ちてきて、ゲンが手刀を当てても向きは変わらず、体にぶつかってきた。23度とゲンは川の中にぶっ倒れた。モロボシ隊長はそれを鬼のような形相でじっと見ていた。ゲンはあまりにつらさにくじけていた。ゲンは滝の下から出てきた。

「隊長、できません!僕には無理です!」ゲンは叫んだ。

「なに!お前がやらなくてどうするんだ!」激しい口調でモロボシ隊長が叫んだ。あまりの厳しさにゲンは涙がこぼれていた。

「その涙はなんだ!そんなことでこの地球が守れるのか!」モロボシ隊長はゲンを滝の下まで引っ張っていった。

「さあ、やるんだ。」

ゲンは再び滝の下に立った。また流木が情け容赦なくゲンに落ちてきた。ゲンは手刀を振るっていたが、流木の方向は変わらず、ゲンの体をさらに傷つけていった。急に上流から丸太のような大きな流木が流れてきた。体のダメージで集中力が途切れていたゲンはそれに気づくことができなかった。

「ゲン、避けろ!」モロボシ隊長が叫んだがもう間に合わなかった。大きな流木が直撃してゲンはあおむけに倒れた。その上をまだ多くの流木が落ちてきていた。

「うわー!」ゲンは遠のく意識の中で死の恐怖を感じていた。

「ゲン!」モロボシ隊長はすぐに近くに駆け寄ると、ゲンの上に落ちてくる多数の流木を素早く手で払った。その流木はすべて叩き割られて川に浮かんだ。

モロボシ隊長は気を失ったゲンを川から担ぎ上げると、ゆっくりと川岸に寝かせた。かなりの傷を負ってしまったようだった。

「ゲン、しっかりしろ。ゲン、ゲン。」体をゆさぶって何度も呼び掛けたが、ゲンの意識は戻らなかった。