新ウルトラマンレオ

別世界のウルトラマンレオの物語

第18話 アストラの旅立ち

夜中の山中に密かに宇宙船が着陸した。暗闇に一人の星人が宇宙船から降りてきた。周囲を見渡して言った。

「戻ってきたぞ。今度こそ地球を破壊してやる。しかしその前にあの男に復讐してやる。この傷の恨みは忘れないぞ。」

星人は胸の傷をさすっていた。そして両手を前に出した。その両手からは鈍い光を発して辺りをほのかに照らした。その光を浴びた草木は急速にしぼんでいき、やがて枯れていった。星人の周りは荒涼な土地に変わった。

 

メディカルセンターの屋上にアストラはいた。星人との戦いに重傷を負ったアストラは入院して治療を受けていたが、ようやく回復して歩けるまでになった。だが、なぜか心にぽっかり穴が開いたように感じて、こうして屋上で空を見上げることが多くなった。

(宇宙を旅してきたが、何も見つけられなかった。僕はこれからどうして生きていけばいいのか。ここにいれば兄さんもいる。優しい地球人もいる。でも自分の居場所はここでないような気がする。)

長い入院生活でアストラは今後の生き方について考えていた。

「よお。また会ったな。」後ろから声をかける人がいた。

「ああ、あなたでしたか。あなたもまたここに。」振り返ったアストラの前には、アオシマ隊員がいた。コーヒーカップをもってアオシマ隊員はよくここに来ていた。

「君はよく空を眺めているな。悩み事があるのか?」アオシマ隊員が訊いた。

「ええ、ちょっと」アストラが答えた。

「そうか。若いうちはよくあるさ。俺もそうだった。君を見ていると昔の俺を見ているようで声をかけたのさ。MACアオシマだ。」

「僕はアストラです。」アオシマ隊員はアストラがゲンの弟とは知らなかったが、アストラは彼がMACの隊員で兄の同僚であることは知っていた。

「こう空を眺めていると気が少しは晴れるな。何を悩んでいるんだ?」アオシマ隊員が訊いた。

「これからのことです。どうしようかと思って・・・」アストラは答えた。

「そうか。それなら俺にも覚えはある。相談にはならないが、俺のことなら話してやれる。」

「ぜひ聞かせてください。」アストラが言うと、アオシマ隊員は話し始めた。

「俺の父は戦闘機の優秀なパイロットだった。地球防衛のため宇宙を駆け巡って活躍をしたそうだ。しかし家庭をかえりみなかったため、ついに離婚となって幼い俺は母に引き取られた。母一人、子一人で苦労して育った俺は父を恨んでいた。そして戦闘機も憎んでいた。そんなものがなければ幸せな家庭で暮らせていたと思っていた。

高校3年になった頃、星人との戦いで父が死んだとの通知を受けた。憎む父の葬式に行く気はなかったが、地球防衛軍の人に無理に連れて行かれた。そこでは多くの人が参列していた。そして息子の俺に声をかけていった。

「クラタ隊長は地球を守るため、最期まで立派に戦われました。」

「すばらしいパイロットでした。クラタ隊長のおかげで何度と命を救われました。」

「私はクラタ隊長のようになりたいと思っていました。全く惜しい人を亡くしました。」

俺はそこで初めて父と向き合えた。ひどい奴と恨んでいた父の本当の姿を見たような気がした。いつも不機嫌で怒りっぽい、それでいて家にほとんど帰ってこない父は、勇敢で部下に慕われ、地球を守る立派な男であった。

そして参列してくれた人の中には、俺に地球防衛軍に入るように言ってくれた人も多かった。あのクラタ隊長の息子なら、必ず地球のために働いてくれると信じているようだった。

俺は迷っていた。凶悪な星人から地球を守る仕事はやりがいがあるように思えた。しかしまだ父に対するわだかまりが解けたわけではなかった。だから毎日、毎日、屋上で空を眺めていたんだ。」アオシマ隊員はふうっと息をついた。

「で、どうしたのですか?」アストラが訊いた。

「空なんか見ていても何の答えも出なかった。でもある人が訪ねてきて俺に言ったんだ。

 「君はお父さんのことを恨んでいるのだろう。でも君に対する愛情が少なかったわけじゃない。むしろ君や家族への愛情は強かったんじゃないかな。不器用な奴だからそれを伝えることはできず、ただいつも懸命に自分の任務を全うしていた。君をはじめ家族を凶悪な星人から守ることが、自分にできる精一杯の愛情と信じていたと思う。彼は君の写真を肌身離さず持っていた。いつもそれを支えに戦っていたのだ。君がもし地球防衛軍に来る気があるなら私は歓迎する。クラタには大事な息子を危ない目に会わすなと怒られてしまうかもしれないが、彼の仕事を認めて後に続くことを知ったら、心の中では喜んでくれるはずだ。」

父の親友だった人だった。俺はそれで踏ん切りがついた。それで地球防衛軍に入った。」

「そうだったのですか。」アストラは何かがわかったような気がしていた。

「ああ、でも不思議なものだ。あれほど忌まわしいと思っていた戦闘機と気が合ってな。今じゃ、相棒みたいなものだ。その腕を買われてMACの隊員になった。俺にいわせりゃあ・・・」アオシマ隊員が話している途中に、通信機の呼び出し音が鳴った。

「おっと。すまない。呼び出しだ。アストラだったな。またな。」アオシマ隊員は通信機を手に取ると走って行った。

 

「すいません。」

司令室に遅れてアオシマ隊員が入ってきた。

「そろったな。R地区の山に異常な宇宙放射線が検知された。これから調査に向かう。」モロボシ隊長が言った。

「宇宙放射線ですか?」クロダチーフが訊いた。

「ええ、ベンド星人と思われます。」横からカジタ隊員が言った。

「奴がまた来たのか?」アオシマ隊員が驚いたように言った。

「そうです。2年ぶりに現れたようです。この宇宙放射線はそうです。地球の生物にかなりの害を与えます。」カジタ隊員は言った。

「非常に危険だ。くれぐれも慎重に行動してくれ。マックホーク1号と4号で向かう。4号機にマックロディーを積んでくれ。では行くぞ!」モロボシ隊長が言った。

 

1号機が現場に到着した。すでに山の一部の色が変わっていた。草木はすべて枯れはてていた。

「ひどいもんだ。」アオシマ隊員が言った。

「星人がいるはずだ。気をつけろ。」モロボシ隊長はそう言うとマックロディーに通信した。

「そっちはどうだ?」

「これからゲンとマックロディーで調査に行きます。」クロダチーフから通信が返ってきた。

1号機では後席のカジタ隊員が調べていたが、星人は発見できなかった。一方、マックロディーは山道を走っていた。防護服を着用したクロダチーフとゲンは慎重に周囲を警戒していた。

ゲンは山の上の方に何かの影を見た。

「チーフ。上の方です。」ゲンが指さした。

「よし、行くぞ。」クロダチーフはそう言うとマックロディーで山に登っていった。星人はそれに気づいて光線を撃ってきた。マックロディーもレーザーで応戦したが、星人の光線は強力でやがてマックロディーは動かなくなった。

「故障です。外に出ます。」ゲンが言った。

「いや、待て。宇宙放射線のレベルが上がっている。外に出ては危険だ。1号機に連絡する。」クロダチーフはそう言うと通信機を手に取った。

1号機、星人を発見。山頂の方です。マックロディーは故障。宇宙放射線のレベルも高いため近づけません。」

「わかった。1号機で攻撃する。アオシマ、いいな。」モロボシ隊長が言った。

「了解。」アオシマ隊員は1号機を山頂に近づけていった。すると星人が光線を撃ってきた。それを旋回して避けた。すると星人は飛び上がって1号機を追っていった。

「俺にまた空中戦を挑むつもりか。」アオシマ隊員はつぶやくと操縦桿を引いて、宙返りした。そして星人の後ろからレーザーを撃った。星人は横滑りで旋回して1号機の背後に着こうとしていた。アオシマ隊員と星人が互いに死力を尽くしていた。激しい空中戦にモロボシ隊長は見守るしかなかった。

しかし一瞬の差であったが、星人の光線が旋回中の1号機をかすめた。損傷は小さかったが、星人はパワーの落ちた1号機の背後に回って光線で攻撃を続けてきた。

「隊長。コントロールがつかなくなってきました。不時着します。」アオシマ隊員は歯を食いしばって何とか機をコントロールしようとした。やがて1号機は地面に機体をこすって不時着した。

「脱出だ。」モロボシ隊長が叫ぶと、アオシマ隊員はすばやく脱出口を開けた。モロボシ隊長は足を負傷したカジタ隊員を連れて脱出した。3人は急いで機から離れようとしたところに、後ろから星人が追ってきていた。

マックロディーからもその様子が見えた。ゲンはクロダチーフの制止も聞かずにすぐに飛び出して行った。

アオシマ隊員は、肩をかしていたカジタ隊員をモロボシ隊長の方に押しやった。

「隊長、カジタを連れて逃げてください。ここは俺が防ぎます。」アオシマ隊員は星人の方に走って行った。

「よせ。危険だ!」モロボシ隊長が叫んだが、アオシマ隊員は聞かなかった。

アオシマ隊員はマックガンを構えて星人の前に立った。星人は嬉しそうに言った。

「やはり、お前だったか。忘れないぞ。お前が俺に傷をつけたのだ。しかし今回は俺の勝ちだ。お前に復讐してやる。」

「何を!地球を襲う奴は許さない。お前こそ覚悟しろ!」アオシマ隊員はマックガンを撃った。しかし星人はバリアで防いでいるようで、その弾をはね返した。そして両手をのばし宇宙放射線をまき散らした。周囲の草木が少しずつしぼんでいった。

「うう。この野郎!」アオシマ隊員が叫んだが、少しずつ力が抜けていくように膝をついて倒れて、気を失っていった。

「苦しんで死ね。」星人はあざけ笑っていた。

「待て!」その時、ゲンがマックガンを構えて星人に近づいた。そしてモロボシ隊長も星人の前に立ちはだかった。

「お前たちも殺してやる。」星人はさらに宇宙放射線をまき散らした。しかし2人は倒れることもなく、マックガンを構えて星人に少しずつ近づいていた。

「ど、どうしてだ。」星人は慌てながら、2人をよく見た。後ろの人間は地球人ではなく、異星人のようだった。そして前の人間はあろうことか、ウルトラセブンだった。それでは宇宙放射線は効くはずがなかった。身の危険を感じた星人は飛んで逃げていった。

 

メディカルセンターでアオシマ隊員は治療を受けていた。ドクターユリの治療ですぐに良くなったようだった。

「ありがとう、ドクター。戻ります。」アオシマ隊員は診療室から出て行った。入れ違いにモロボシ隊長が入ってきた。

「どうなんだ。アオシマは?」

「よくないわ。2年前に星人を撃ち落とした後に捕まえようとして宇宙放射線を浴びたわ。そのダメージは消えることはなくて、ここで週に2回、薬を使って症状を押さえているの。今回も宇宙放射線を浴びたからそのダメージは計り知れないわ。」

アオシマは知っているのか?」

「ええ、でも俺は戦うと言ってきかないの。誰にも秘密にしてくれって。そうしないとマックホークに乗れなくなるからって。」ドクターユリは言った。

そこの近くの廊下を通りかかったアストラにはその会話は聞こえてしまった。

 

「別の山でまた宇宙放射線をキャッチしました。」シラカワ隊員が振り返って言った。

「よし、2号機で出撃する。ただしアオシマとカジタは基地で待機だ。」モロボシ隊長が言った。

「どうしてですか。俺はもう元気です。ピンピンしています。」アオシマ隊員が言った。

「いや、体にダメージがあるはずだ。今回はおとなしくしていろ。モロボシ隊長はそう言うと司令室を出て行った。

 

星人はあの地球人がやってくるのを待っていた。そこにマックホーク2号が現れた。星人はいきなり飛び上がると2号機を追ってきた。モロボシ隊長はなんとか引き離そうとしていた。後ろから星人の光線が2号機に迫っていた。アカイシ隊員とゲンの乗った4号機も後から現れてレーザーで加勢したが、星人の動きは素早く、2号機もろとも光線をあびて脱出していった。その状況は司令室にも届いていた。

「やはり、我慢できん。」アオシマ隊員は飛び出すと3号機で出撃していった。

 

ゲンはパラシュートで脱出すると、レオに変身した。レオは空を飛んで星人を追った。ハンドビームを撃つが当たらなかった。星人は巨大なレオを馬鹿にするように、前後左右上下と動き回り、光線でレオを攻撃した。何度も光線を受けたレオは地上に落下した。ダメージのためにカラータイマーが点滅し始めた。星人は空中からレオに何度も光線を浴びせた。

その時、アオシマ隊員の3号機が到着した。星人はそれに気づいて、3号機に向かって飛んで行った。また火の出るような空中戦が始まった。激しい機動を繰り返してはレーザーや光線で攻撃していた。しかし3号機は少しずつ星人の光線で傷ついていった。エンジンのパワーは落ちてきて、飛行は不安定になっていた。なおも星人が後ろから攻撃をかけていた。

「こうなったら奥の手だ。」アオシマ隊員は操縦桿を精一杯倒した。3号機は急降下して地上に突っ込んでいった。星人がその後を追ってきていた。アオシマ隊員は地上にぶつかる前に、スピードの出た3号機を引き起こした。そして宙返りをして星人の後ろについた。そこでレーザーを発射した。それは見事に星人に命中して地上に落ちていった。地上のレオはそれを見てエネルギーブレスレッドを光らせて、星人にエネルギー光球をぶつけた。大きな爆発とともに星人は消滅していった。

 

メディカルセンターの屋上には、コーヒーを片手に空を眺めるアオシマ隊員の姿があった。

アオシマさん。」後ろからアストラが声をかけた。

「ああ、アストラか。どうだ、調子は?」アオシマ隊員が訊いた。

「もうすぐ退院です。」アストラは答えた。

「そうか。それはよかったな。でどうするんだ、これから?」アオシマ隊員が訊いた。

「まだ迷っています。」

「ところで両親は?これからのことを相談しないのか?」アオシマ隊員が訊いた。

「両親はもういません。」アストラは答えた。

「すまない。嫌なことを訊いてしまって・・・」

「いえ、いいんです。兄がいます。最近、久しぶりに会うことができたのです。」アストラは言った。

「そうか。それならお兄さんともよく相談するんだな。」アオシマ隊員は言った。

「そう言えばこの間、何か言いかけていましたね。」アストラは気にかかっていることを訊いてみた。

「そうだったな。たいしたことじゃない。人生ってわからないものさ。でもどこかに自分の道がある。その道にはどんな苦痛や困難が待っているかもしれないが、それはそれで幸せなことなんだ。生きているって実感できるんだ。もし明日死ぬとしても、絶対に後悔しない。」アオシマ隊員はやや熱くなって言った。その言葉はアストラに決意させた。

「おっと、もう時間だ。じゃあな。アストラ。」腕時計を見たアオシマ隊員は階段の方に歩き出した。

「ありがとうございます。アオシマさん。」アストラは言った。アオシマ隊員は振り返りもせず、右手を上げて答えた。

しばらくしてゲンが屋上に上がってきた。

「もうすぐ、退院だってな。ドクターに聞いた。」ゲンが言った。

「兄さん。僕はまた宇宙の旅に出るよ。兄さんのいる地球にとどまることも考えたけど、宇宙のどこかに僕にとっての本当の人生が見つかるかもしれない。だから行くよ。」アストラは言った。

「そう決心したんだな。アストラ、がんばれよ。兄さんは地球にいるから困ったら来いよ。」ゲンは言った。アストラは静かにうなずいた。