第21話 雪女エレジー
雪の中の一軒家から少女が飛び出してきた。
「みんな嫌いよ!」
吹雪の中を走っていった。
「ゆき!」
祖母が叫んで家の外へ出た。しかし雪のため追いかけられなかった。 周りは暗闇が広がっていた。
吹雪の中を泣きながら少女は歩いていた。
「誰も私のことをわかってくれない・・・」
やがて寒さで倒れてしまった。雪が少女の体に降り積もっていた。
暗闇から最初はぼんやりと、しかし次第にはっきりと大きな人影が近づいてきた。少女のそばまで来ると顔をのぞき込んだ。そして少女を抱え上げた。白い着物を着た妖怪だった。
司令室では山里村の異常気象について問題となっていた。自然現象としては説明できないほど局所的な大雪だった。しかも今も続いていた。念のためMACが調査することになった。
アカイシ隊員とゲンが選ばれ、マックホーク4号で現地に向かった。
「山里村は結構寒くなっているらしいですよ。」ゲンが言った。
「俺は雪国生まれだから大丈夫と思うが、お前はどう?」
「僕は苦手です。」
「そうか。隊長と同じだな。」
吹雪の中、やっとのことで村役場に着いた。そこは大騒ぎになっていた。
「雪女が出た。」と口々に言っていた。アカイシ隊員が聞いた。
「何が起こったのですか?」
「昨日、雪の中を少女が出て行って行方不明になったので、村を上げて捜索したのですが見つからなかったのです。大雪で吹雪いていることもあって、もう駄目だと思っていたんですが、次の日には家の前に倒れていました。体は冷えていましたが、健康に問題はないようです。」職員が答えた。
「不思議なことがあるもんだなあ。でもそんな話はどこでも聞いたことがある。ビバークかなんかして助かったんだろう。運がよかったんだな。」アカイシ隊員が言った。
「いいえ、少女に聞くとあまり覚えていないけど、だれかに抱きかかえられて戻ってきたと言っているようです。」
「それじゃあ、誰か村の人が助けてくれたのですね。」ゲンが言った。
「いいえ。村の誰も。ひどい吹雪だったので途中でみんな帰って来たんです。ただ・・・」
「ただ?」アカイシ隊員が身を乗り出して聞いた。
「白い着物を着た女の人が抱えてきたのを見たという人がいるんです。それで村じゃあ、雪女が出たって大騒ぎになって。だれかが寝ぼけて見間違いしたかもしれないのに。」
「おい、聞いたか。雪女だぞ。一つ調べてみるか。」アカイシ隊員は面白そうに言った。
「星人と関係なら引き上げた方がいいかもしれませんね。雪女は他の部署に任せて。」ゲンは言った。しかしゲンは
(この寒さと吹雪は異常だ。自然現象とは思えない。絶対に星人が関係している。)と思っていた。
吹雪はますますひどく山里村を襲っていた。あまりのひどさに道は封鎖されてしまっていた。外界の交通はできなくなっていた。
「吹雪がやめば調査もできるが、これではマックロディーも山の中を走らないし、歩いて調べるわけにもいかない。一旦、基地に戻るか。」アカイシ隊員が言った。
「そうですね。」ゲンが言った。
「じゃあ、先に4号機に行って準備をしてくる。おまえは荷物をまとめてゆっくり来いよ。寒さに弱いのだから。」アカイシ隊員が言った。
しばらくしてアカイシ隊員が息をきらして戻ってきた。
「ゲン、大変だ。4号機が動かない。思ってたより外は気温が下がっている。しかも
基地と連絡が取れない。機器が凍り付いたせいかも知れない。」
「じゃあ、他の乗り物もそうなっていますね。これでは外に出られないし、食料も燃料もここにあるだけということのなりますね。」ゲンは言った、
「まずいな。救援もしばらく来れないから、完全に孤立した。ここには大勢の村人もいる。対策を取らないと。」
アカイシ隊員たちは尊重と相談して山里村の住人は公民館に集められた。食料や燃料も集められた。残り少ない物資でなんとか救援が来るまで持たそうというのだった。
「いつまで続くんじゃろう。」村人たちは口々に言っていた。
「やはり雪女だ。このままみんな凍死するぞ。」
「だれも助けに来てくれない。」悲観する村人も多かった。
「もう少し頑張れば助けが来ます。」
アカイシ隊員とゲンが村人たちを励まして回っていた。
ゲンは村の周囲におかしな物音がするのに気付いていた。夜間に大きな怪獣のようなものが歩き回っているようだった。吹雪の中ではっきりは見えないが、ゲンは確信した。
(やはりおかしい。この村は孤立させられている。怪獣、いや星人が絡んでいるのに違いない。)
公民館であの少女は隅の方にいた。この吹雪は雪女のためと村の人は言っているが、自分にはそう思えなかった。誰かに抱きかかえられた感触は残っていたが、それは何か温かい、懐かしい感じだった。あれが猛吹雪を引き起こす雪女とは思えなかった。しかもこの吹雪は人工的な無機質なものに思えた。村人が自分を助けてくれたものを悪く言うたびに、少女は悲しくなった
その少女の姿を祖母は心配そうに見ていた。ゲンはそれが気にかかり、その祖母に詳しいことを聞いてみた。
「あの少女はお孫さんですか。先日、雪女に助けられたとうわさになった。」
「ゆきは生まれて間もなく母親とともにこの村に戻ってきました。父親が死んだとかで。それから3人でこの村で暮らしていたのです。でも、ゆきの母親は2年前に冬の山の事故で死んでしまいました。それからゆきはふさぎこむようになって。」
祖母は暗い表情で言った。
「山村で生活に不自由ですし、しかも私も年でこれからのことを考えると不安になって。ゆきを都会の知り合いに預けようとしたのです。そうしたらゆきは家を飛び出してしまったのです。どなたか親切な方が助けて下さったんで大事には至らなかったのですが、これからのことを考えるとどうすればいいのかと思って。」
不安そうな祖母を前に、ゲンはただうなずいて聞いていた。
「やっと基地と通信がつながったぞ。」アカイシ隊員がゲンを呼んだ。
4号機から降ろしてきた通信機がやっと復活した。
「モロボシだ。今、関係各所が救援を試みているところだ。もう少し頑張ってくれ。」
「はい、隊長。あのちょっと気になることが、」
ゲンは今までの出来事を隊長に話した。
「それはウーかもしれない。人の思いが結晶してできた怪獣というか、妖怪というものと言われている。はっきり解明されてはないがそういうものがあるのだろう。」モロボシ隊長は答えた。
「しかしその気象はおかしい。よくこちらのデータを調べると星人が入り込んでいる可能性がある。十分注意しろ。それからアカイシは今すぐに公民館の残りの燃料をチェックしてみてくれ。」それを聞いてアカイシ隊員が部屋を出て行った。
「アカイシは出て行ったか。」
「はい、隊長。」
「いいか、ゲン。敵はポール星人だ。奴らはまた地球を凍らせるためにやってきたのだろう。その村を侵略基地にするつもりかもしれない。奴らは怪獣ガンダーを連れているはずだ。なんとかそいつを撃退してくれ。ただ極寒の中での戦いになるからエネルギーには十分注意するんだ。」
吹雪は止まなかった。燃料はさらに節約され室内も寒い状態が続いた。ある村人が言った。
「ゆきよ。雪女に吹雪をやめてくれるようにお願いしてくれないか。このままだと凍死してしまう。」まるで雪女の仲間ともいわんばかりだった。他の村人も冷たい目でゆきをじっと見ていた。
「わかったわよ。言いにいってあげるわ。」ゆきは飛び出した。
「待ちなさい。」
ゲンとアカイシ隊員が追いかけた。
ゆきは公民館を出ると吹雪の中を走って行った。ゲンとアカイシ隊員が追いかけるが見失ってしまった。しばらくゆきが進んでいると上の方から獣のような声が聞こえた。見上げると怪獣が歩いていた。ゆきは逃げようとしたが吹雪のため足を取られて、あまり早く動けなかった。怪獣がどんどん近づいてきた。ついにゆきは転んで倒れた。
(もうだめ。)と思って目をつぶった瞬間、ゆきはまたあの不思議な感じに包まれた。誰かが自分を抱えて走っているようだった。静かに目をあけると、顔色は白いが優しい顔をした女の人が自分を抱きかかえていたのだった。それは2年前に死んだ母に似ていた。
公民館の前でゆきは降ろされた。白い着物を着た女は優しく微笑んでいた。その後ろに怪獣が迫ってきていた。その女は振り返るとその怪獣の方に向かって行った。
「母ちゃん」雪は叫んだ。その声は吹雪の中を響き渡った。
女は徐々に巨大化して怪獣と同じぐらいになり、顔は恐ろしい顔になった。ウーだったのだ。
怪獣は冷凍ガスを吐いたがウーには効かなかった。ウーは怪獣にぶつかっていく。体当たりに面食らった怪獣だったが、逆にウーを捕まえて投げ飛ばした。ウーは雪面にたたきつけられた。しかし再び立ち上がり怪獣に向かって行く。こんども倒され足蹴にされていた。
「母ちゃん」雪の声が響き渡っていた。
ゲンは遠くの方で、ゆきを助けるためウーが怪獣と戦っているのが見えた。ゲンはレオに変身した。
レオになると怪獣に向かって行った。しかし怪獣は飛び上がって避けた。そして距離をとって冷凍ガスを浴びせた。レオは体が凍ってきて自由を奪われていった。何とか抜け出そうとしたが、冷凍ガスを浴びせ続けられて動けなかった。エネルギーブレスレッドを光らせて光線技を使おうとするが、冷凍ガスでそのエネルギーさえも凍らせているようだった。ダメージのためカラータイマーが点滅し始めた。アカイシ隊員が駆けつけて、マックガンを撃ったが怪獣には効果がなかった。
そのときウーが力を振り絞って立ち上がり怪獣に体当たりをした。怪獣はどっと倒された。しかしすぐに立ち上がるとウーにつかみかかり、大きく投げ飛ばした。ウーは大きなダメージを受けて起き上がれなかった。
その間にレオはエネルギーブレスレッドにエネルギーをためることができた。全身がエネルギーで輝き、凍った体を溶かした。そして怪獣に構えをとると向かって行った。飛び上がって逃げようとするところに、怪獣の足を捕まえた。その足をしっかり持つと怪獣を振り回して放り投げた。怪獣は地面にたたきつけられた。レオは怪獣に止めのエネルギー光球を放った。怪獣に直撃して爆発して四散した。
ウーはようやく立ち上がり、もとの女の姿に戻った。ゆきには声が聞こえてきた。
「ゆき、私が愛する娘。つらいことがあっても、あなたはこれからしっかり生きていくのですよ。わたしはいつもこのお山からあなたを見ています。」
少しずつ女の姿は消えていった。
「母ちゃん!」ふたたびゆきの声が響いた。
変身を解いたゲンはその光景をじっと見ていた。アカイシ隊員や村人もそれを見ていた。中には涙を流すものや手を合わせる者もいた。吹雪は止んで、太陽が雪山をまぶしく照らしていた。