新ウルトラマンレオ

別世界のウルトラマンレオの物語

第15話 ゲンの休日

海底で巨大な影が動いていた。それは少しずつ体を浮かせて泳ぎ始めた。奇妙なことに体の一部が点滅していた。よく見るとそれはその影に突き刺さった円筒形の物体だった。それは危険を示す点滅信号を放っていた。

その大きな影、それは怪獣だった。怪獣が新型爆弾を抱えたまま、海底を泳ぎ回っているのだった。

 

ゲンは休暇を初めてもらって、久しぶりに師匠の家に戻ってきた。道場の門も以前と変わらず低く、ゲンの頭がつかえるほどだった。ゲンは頭を下げて中に入った。

「師匠、今、帰りました。」奥に声をかけてみた。すると勢いよく駆けてくる音が聞こえた。

「お兄ちゃん、お帰り!」モモコが玄関まで走ってきて笑顔で迎えた。

「ただいま。元気だったか。」ゲンが声をかけた。

「お兄ちゃんも元気そうね。お父さんが待っているわ。」モモコはゲンの腕をとって奥に連れて行った。

師匠は縁側に座っていた。部屋に入ってきたゲンを見て、

「よく帰ってきた。まあ、ゆっくりしていきなさい。」優しく声をかけた。ゲンは頭を下げると、縁側に行って師匠の横に座った。

「勝手に出て行ってすみません。」

「いや、いいんだ。ゲンが自分で決めた道だ。最後までしっかりやり遂げなさい。」師匠は笑顔で言った。

「はい。MACの隊員として任務に励みます。」ゲンはしっかり答えた。

「元気そうでよかった。こっちは変わったことはないが、ゲンは毎日、大変だろう。」

「いいえ。もうMACの生活に慣れましたから。」ゲンは言った。

「いつまでいられるんだ?」

「明日朝に帰ります。隊長からもよろしくお伝えするように、とのことでした。」

その後、師匠とゲンがとりとめのない話をしばらくしていると、

2人とも何しているの。ご飯御支度ができたわよ。」モモコがやや怒ったように声をかけた。話に夢中で、モモコの呼ぶ声が聞こえていなかった。師匠とゲンは苦笑しながら立ち上がった。

 

司令室では緊迫した空気に包まれていた。

「ハーレイ公国からの情報です。」シラカワ隊員がモニターに出した。

「何だ、これは!」アオシマ隊員が叫んだ。

「カジタ、これはどういうことだ。」クロダチーフが訊いた。

「ハーレイ公国の近海に怪獣が出現して、追い払うために新型爆弾を発射したそうです。でも爆弾は爆発しなかった。怪獣に刺さったままのようです。自爆装置も働かなくなっているようです。でもいつ爆発するかわかりません。」カジタ隊員が答えた。

「新型爆弾?」アカイシ隊員が尋ねた。

「ええ、実は非常に強力な爆弾で大きな島一つぐらい吹っ飛ばせるほどです。」カジタ隊員が言った。

「そんな危ない奴がどうしてそこにあるんだ?」アオシマ隊員が訊いた。

「多分、大国が何かの取引に売ってしまったのだろう。それより怪獣の位置はわかっているのか?」クロダチーフが言った。

「いえ、はっきりした位置はわかりません。ただ日本の近くにいるようです。」シラカワ隊員が言った。

「それは危ないな。カジタは新型爆弾についてもっと情報を引き出してくれ。チーフとアオシマはマックホークで怪獣の捜索してくれ。」モロボシ隊長が言った。

 

夜になってゲンは外に出てみた。海岸近くにある師匠の家からは海がよく見えた。ゲンが最後に見たのはマグマ星人と怪獣ギラスが暴れまわった後の光景だった。それに比べ、今夜は波が静かで港の明かりが優しくまたたいていた。

「ゲン、どうだ。久しぶりの家は?」後ろから師匠が来ていた。

「はい。落ち着きます。任務に追われていた毎日でしたから。」ゲンが答えた。

急に師匠はゲンの前に立って言った。

「ゲン、久しぶりにやるか?」師匠は空手の構えをした。

「はい。お願いします。」ゲンも構えた。

「よし、来い。」

ゲンは打ち込んでいった。師匠はそれを受けながら、突きを返した。2人が組手をする姿は以前のものと違うことはなかった。しかし師匠はゲンの変化に気付いていた。

師匠にはゲンが一段とたくましくなったと感じた。MACの入隊は、心が傷ついているゲンにはかわいそうだと最初は反対していたが、MACで鍛えられることがかえってよかったとわかって、師匠は安心した。しかもモロボシ隊長というただものではない人がゲンをいい方に導いてくれる気さえしていた。

組手を終えると、お互いに礼をした。

「ゲン、心身ともに強くなっている。私は安心した。もう帰るか?」師匠が言った。

「いえ、もう少しここにいます。」ゲンは答えた。

「そうか。しばらくは帰れないだろう。しっかり故郷の景色を目に焼き付けとくといい。」師匠はそう言って帰っていった。

ゲンはまた海の方を見た。さっきまで静かだったのが、波が激しく立ってきていた。ゲンは少し違和感を覚えながら、しばらくじっと海を見ていた。

 

マックホーク1号と2号が暗闇の海に怪獣の捜索に出ていた。

「こちら2号機、この海域は異常なし。」クロダチーフから通信が入った。

「ご苦労、では隣の海域を頼む。」モロボシ隊長が通信した。隣でアカイシ隊員がモニターをチェックしていた。

「休暇中のオオトリ隊員を呼び出しましょうか?」シラカワ隊員が尋ねた。

「久しぶりに家に帰ったんだ。幸い怪獣も出てきていないし、明日までいさせてやりましょう。いいですね。隊長。」アカイシ隊員が言った。

「うむ。明日からもっと大変になるかもしれないからな。」モロボシ隊長が言った。その時、1号機から通信が入った。

1号機、アオシマです。はっきりしませんが、海底に大きな物体を探知しました。上空からではこれが精一杯です。」

「わかった。マックシャークで調査する。1号機はそのまま上空でその物体を追っていてくれ。」モロボシ隊長は通信すると、

4号機にマックシャークを乗せて出動する。アカイシ、シライシ君、来てくれ。」と命令した。

 

暗い夜をマックホーク4号が飛んで行った。シラカワ隊員は4号機を空中に止めると、モロボシ隊長とアカイシ隊員の乗るマックシャークを降ろした。

「潜航はじめ。」モロボシ隊長が言うと、アカイシ隊員はマックシャークを潜航させていった。機器には弱いながらも大きな影を前方に捕らえていた。

東京湾の方に向かっているようです。速度も上がっています。」アカイシ隊員が言った。

「うむ、まずいな。なんとか陸地から遠ざけないと。」モロボシ隊長が言った。

「隊長、大変です。」通信機から司令室のカジタ隊員が通信してきた。

「どうした?」モロボシ隊長が返した。

「あの爆弾は内臓電池が切れると爆発します。計算ではもう1時間もありません。」

「なに!でははやく動きを止めなければ。このままでは東京に大きな被害を及ぼす。」モロボシ隊長は通信を終えると、マックシャークのスピードを上げた。

「隊長、カジタからの報告ではあの爆弾は一応、衝撃には強いようです。」アカイシ隊員が言った。

「そのようだな。魚雷ミサイルを使っても大丈夫なようだな。それで怪獣を倒せればいいが・・・。そうでなくてもここから引き離せるだけでもいい。」モロボシ隊長が言った。スピードを上げたマックシャークの前に怪獣が見えてきた。

怪獣は東京の海岸を目指して海底を進んでいた。あちこちで攻撃を受けており、興奮状態の怪獣は凶暴になっていた。進む先々で海底の岩山を破壊していった。首に突き刺さった爆弾が点滅しているのがさらに怪獣に不気味な印象を与えていた。

「よし、魚雷ミサイル発射!」モロボシ隊長が言った。マックシャークから魚雷ミサイルが発射され、怪獣の方に向かって行った。外れたのが多かったが、2発が怪獣に命中して、大きな爆発が起こった。怪獣は咆哮して暴れていた。

「次、発射!」さらに魚雷ミサイルが怪獣に向かって行った。怪獣はそれに気づいて向き直ると、口から衝撃波を放った。それで魚雷ミサイルはすべて破壊されてしまった。

「旋回してまた攻撃をかける。マックホークから攻撃できないか?」モロボシ隊長が通信した。

マックホーク1号と2号が上空にいたが、海底にはミサイルやレーザーは届きそうになかった。

「隊長、マックホークからでは攻撃はできません。深すぎます。」クロダチーフが応答した。

「だめか。アカイシ、とにかく奴の後ろに回れ。東京を背に戦うんだ。これ以上、進ませるな。」

「了解。」アカイシ隊員はマックシャークを怪獣に後ろに回り込ませると、魚雷ミサイルを発射した。怪獣はますます凶暴になり、衝撃波をマックシャークに放った。直撃は避けたが船体は大きく揺れ、浸水して計器に赤信号が点滅し始めた。

「隊長、もちません。操舵不能!」アカイシ隊員が叫んだ。

「後退しろ。」モロボシ隊長が言ったが、スロットルは反応しなかった。やがて怪獣が近づいてきて、マックシャークを手ではたいた。船体はゆがみ亀裂が走り、大きく回転をして海底にぶつかっていった。

「うわー!」アカイシ隊員は強烈なGに気を失った。モロボシ隊長はなんとか体を支えて衝撃に耐えた。マックシャークは海底に横たわったまま、動かなくなった。怪獣はそれを後目に東京の海岸に向かって行った。

モロボシ隊長はスイッチを動かしたが反応しなかった。通信装置も故障していた。

(このままでは東京は新型爆弾で大きな被害を受ける。何とか食い止めなければ・・・。)しばらく考えた時、ゲンのことを思い出した。

(ゲンは確か、海岸近くにいるはずだ。テレパシーさえ通じれば何とかなる。)モロボシ隊長は遠くにいるゲンにテレパシーで呼びかけた。しかしかなりの距離があるため、モロボシ隊長の超能力でも簡単にはいかなかった。それでもしばらくして何とかゲンに伝わった。

ゲンは横になっていたが、モロボシ隊長のテレパシーを受けて飛び起きた。

((隊長、ゲンです。どうしたのですか?))

((爆弾が首に刺さったままの怪獣が海岸に向かっている。爆発したら海岸は全滅だ。爆発まで30分もない。変身して阻止してくれ。))

((わかりました。すぐ行きます。))ゲンは師匠たちに気付かれないように外に出ると、変身してレオになって飛んで行った。そして海中に潜っていった。

怪獣が進む衝撃が遠くまで伝わっているので、怪獣はすぐに探し出すことができた。凶暴になっている怪獣はレオを見て襲ってきた。レオは怪獣を受け止めたが、その勢いの強さに押されていた。そしてはね飛ばされた。怪獣は向きを変えるとまたレオに体当たりをしてきた。レオはハンドビームを撃とうとしたが、怪獣の首に不気味に点滅した光を放つ爆弾を見つけた。

(だめだ。もし爆弾に当たってしまったら、ここで大爆発を起こす。そうなったら海岸に大きな被害が出る。)レオはエネルギーバリアを張った。怪獣は突進してきたがなんとか受け止めることができた。しかし口を開いて衝撃波を放つと、周囲に激しい渦が起こってレオは吹っ飛ばされた。そして起き上がったところを衝撃波の直撃を受けて、海底にたたきつけられた。ダメージのためカラータイマーが点滅し始めた。

怪獣に刺さっている爆弾の点滅が一層激しくなってきていた。もう爆発は迫っているようだった。

(急がないと・・・。一か八かだ。)レオは怪獣に猛スピードで一直線に向かって行った。怪獣は衝撃波を放ったが、スピードを上げたレオはそれを避けてエネルギーソードを出した。そしてすれ違いざま、怪獣に斬りつけた。

怪獣は声を上げる暇もなく、真っ二つに斬り裂かれた。レオは反転して怪獣から爆弾を引き抜くと、上昇して海から飛び出し、夜空に上っていった。やがて姿が見えなくなり、しばらくして上空の一点が光って、遅れて大きな衝撃音がした。レオの活躍で新型爆弾の被害は避けられた。

 

ゲンは誰にも気づかれないように家に戻って、次の日を迎えた。外は晴れ渡って、すがすがしい風が吹いていた。

ゲンが出発する時、師匠たちは門まで見送りに出た。

「もう行ってしまうの?」モモコが不満そうに言った。

「ああ、でもまた帰って来るよ。じゃあな。」ゲンは言った。

「では行ってきます。」ゲンは師匠の方を向いて言った。

「ゲン、しっかり励みなさい。地球を守るという大事な任務をしているのだから。でもつらいことがあったらいつでも帰ってきていい。ここはお前の家だ。だから安心して精いっぱい頑張って来なさい。」師匠は言った。

「はい。」ゲンは頭を下げて答えると、見送る師匠たちを背にして歩き始めた。

海岸から見える海はまた穏やかになっていた。