新ウルトラマンレオ

別世界のウルトラマンレオの物語

第14話 外したターゲット

射撃の世界大会が開かれていた。銃を持ったクロダ選手は次々に標的に命中させていた。

「これを命中させたら、逆転優勝だ。」周りの観客が騒ぎ始めた。クロダ選手は気を落ち着かせるために胸に手を当てた。そしておもむろに拳銃を握ると、ゆっくりと右腕をのばして狙いをつけた。胸の鼓動が速くなって、彼の耳の大きく聞こえていた。目の前の銃身はかすかに震えていたが息を止めて集中して、一思いに引き金を引いた。

「バーン。」乾いた音がした。放たれた弾は狙った通りの軌道を描いたと思ったが、的には当たらなかった。

「はずした・・・」観客が失望したようにつぶやいた。クロダ選手は保護メガネをはずして当たらなかった的をじっと見ていた。

周囲では優勝した選手が大騒ぎで歓喜の声を上げていた。それが耳に入らないように、クロダ選手はまだ茫然としていた。

 

「国際会議場に何者かが侵入したようです。星人と思われます。」緊急通信を受けて、シラカワ隊員が振り返って隊員たちに言った。

「確か、世界中のエネルギーの科学者や技術者が集まっているはずです。」カジタ隊員が言った。

「じゃあ、多くの人がいるんだな。」アオシマ隊員が言った。

「そんなところをどうして?」アカイシ隊員が言った。

「何か目的があって、それらの人を誘拐するつもりかもしれません。」ゲンが言った。

「マックカーならすぐに現場に向かえます。」クロダチーフが言った。

「星人から人々を守らねばならない。アオシマとカジタはマックホーク1号で上空にて待機。他の者はマックロディーとマックカーで現場に向かう。」モロボシ隊長が命令した。隊員たちは司令室を急いで出て行った。

 

国際会議場では科学者や技術者が多く集まっていた。そこに武装した星人が数人乗り込んでいった。会議場ではいきなり現れた星人にパニックになり、人々は逃げ惑っていた。

隊員たちの乗ったマックカーが到着した。

「星人が会議場に侵入している。突入する。十分気をつけろ。」モロボシ隊長が言うと、隊員たちはマックガンを抜いて会議場に入っていった。中は人々の悲鳴が聞こえ、人々が逃げてきて、入り口にようやくたどり着いた人もいた。

「星人です。我々を連れて行こうとしています。助けてください。」隊員たちを見て口々に言った。

「ここから逃げてください。星人は我々が対処します。」クロダチーフはそう言うと、さらに奥に入っていった。

星人たちは目をつけた科学者と技術者を数人、光線銃で脅して連れていった。国際会議場の中庭には見えないように巧妙に隠された宇宙船があった。

「待て!」クロダチーフがマックガンを構えて星人たちを追いかけた。後ろを警戒していた3人の星人は光線銃を放った。クロダチーフはすばやく壁際に隠れた。そしてタイミングを見計らって飛び出すと、マックガンを連射した。星人たちは次々に撃たれて倒れた。前にいた星人の一人が、一人の科学者を羽交い絞めにして光線銃を突きつけた。

「銃を捨てろ!そうしないと、この人質は殺す!」星人は叫んだ。後ろからゲンやアカイシ隊員も駆け付けた。マックガンを構えるが、人質がいるため撃つことができなかった。他の星人たちは、科学者らを連れて中庭に向かっていた。

(この距離なら、星人だけを狙える。)クロダチーフは思った。人質に当たらないように星人に狙いをつけた。緊張すると胸の鼓動が聞こえてきた。

(また、あの時のことが・・・)クロダチーフの脳裏には射撃の大会の情景が浮かんできた。

額には脂汗がわき、唇は乾き、手がかすかに震えていた。時間が過ぎていった。

横にいたゲンはクロダチーフの異変に気付いた。

(おかしい。これほどの距離、チーフなら星人だけを確実に狙えるはずだ。でも撃たない。どうして?)

「早く銃を捨てろ!そうしないと他の奴も殺すぞ!」

星人は銃を捨てない隊員たちに怒り、人質にさらに光線銃を突きつけた。その時だった。別の方角からマックガンの発砲音が聞こえた。星人は背部を撃たれて、人質を放した。その背後のずっと奥には、マックガンを撃ったモロボシ隊長がいた。

「おのれ!」まだ倒れない星人は、人質を光線銃で撃とうとした。駆け寄っていたゲンが星人を撃って倒した。クロダチーフはマックガンを構えたまま、固くなって動けないでいた。その間に他の星人たちは科学者らとともに宇宙船に乗り込んだ。ゲンたちが駆け付けた時には、もう宇宙船は発進していた。

1号機、聞こえるか?宇宙船が飛び立った。中には人質がいる。追跡しろ!」モロボシ隊長が通信した。

1号機、了解。」アオシマ隊員が応答して、1号機で宇宙船を追跡した。宇宙船は煙幕を張りながら逃げていった。

「レーダーが妨害されています。」カジタ隊員が言った。

「なに!まずいな。宇宙船の姿が見えない。」1号機は山の上空で宇宙船を見失った。多分、どこかに着陸したのに違いないが、上空からの捜索ではわからなかった。

 

司令室では重い空気が流れていた。クロダチーフは自分の責任を強く感じていた。しかし沈痛な面持ちの彼を責める隊員はいなかった。他の隊員たちも星人を取り逃がした責任を感じていたからだった。

「誘拐された科学者や技術者のリストができた。見てくれ。」モロボシ隊長が資料を隊員たちに見せた。

「新しい高エネルギー装置のマーズシステムの専門家ばかりだな。」アオシマ隊員が言った。

「そうだ。奴らはマーズシステムを使って兵器を作るかもしれない。」モロボシ隊長が言った。

「例えば、強力な光線とか?」アカイシ隊員が訊いた。

「いえ、そればかりじゃ、ありません。強力な動力にもなります。」カジタ隊員が言った。

「奴らがその兵器で襲ってくるのは時間の問題だ。だがその兵器は完璧ではない。」モロボシ隊長が言った。

「どういうことですか。」ゲンが訊いた。

「マーズシステムには重大な欠点があるらしい。1人だけ助けたジーン博士はその欠点を補う装置を開発した。だから星人たちがそれを作ったとしても、不完全な状態だと思う。」モロボシ隊長が言った。

「じゃあ、そのジーン博士をまた誘拐するかもしれませんね。」ゲンが言った。

「そうだ。今はこの基地で保護しているが、1週間後はどうしてもマーズシステムの実験場に行かねばならない。その時は全員で警備する。いいな!」モロボシ隊長が言った。クロダチーフは何も言わないまま、司令室を出て行った。

 

地下の射撃場でクロダチーフが射撃練習を続けていた。来る的、来る的、すべて中心を撃ち抜いた。しかしクロダチーフは納得できず、長い時間それを続けていた。

「チーフ、まだやっているのか。」後ろにモロボシ隊長が来ていた。クロダチーフはあわてて銃を置いて、イヤープロテクターを外した。

「隊長、私は・・・。私は撃てなかった。一番大事なところで・・・。MACの隊員失格です。」クロダチーフは泣きそうになりながら言った。

「チーフ。君の射撃の腕はピカイチだ。しかしそれで撃てないというのは心の問題だ。」モロボシ隊長はクロダチーフの撃ち抜いた的を見ながら言った。

「決して人間は完璧ではない。しかしだからといって劣っているわけではない。完璧でないがゆえに、無限の可能性を秘めているのだ。だから自分自身の可能性に期待するのだ。自分を信じるのだ。それができれば大丈夫だ。私は君を信じている。」モロボシ隊長はそう言うと射撃場を出て行った。クロダチーフはじっと頭を下げていた。

 

マーズシステムの実験場は東京近郊の山の中にあった。もうすでに物々しい警備が敷かれていた。

「こんなに厳重だと星人は現れないな。」外で見張っているアカイシ隊員がつぶやいた。その時、大きな音と地震が起こった。ふと外を見ると、山の一角が崩れ、中からロボットが姿を現した。

「大変だ!隊長、ロボットです。星人が操っているかもしれません。」あわててアカイシ隊員が通信した。

「そうか。1号機はロボットを攻撃。アカイシとゲンはマックロディーで地上から攻撃してくれ。チーフは引き続き、実験場の中の警備を頼む。」モロボシ隊長が指示を出した。

ロボットは強いパワーで山を切り崩し、顔からは強力な光線を発射していた。マーズシステムによるものかもしれなかった。

「強力なロボットに、高エネルギーのマーズシステムを組み込んだのだな。厄介だな。」1号機のアオシマ隊員がつぶやいた。急降下してミサイル攻撃を行うが、ロボットにダメージはなかった。強力なバリアも張っているのかもしれなかった。地上からはマックロディーのレーザーが放たれたが、これもバリアに阻まれた。ロボットが少しずつ、実験場に近づいていた。

実験場ではパニックになっていた。科学者や警備員たちが逃げ惑っていた。しかもその騒ぎに気を取られていて、宇宙船が姿を隠して実験場のそばに着陸したのに誰一人、気付かなかった。星人たちがジーン博士を拉致しようとして、宇宙船を降りてきた。

「星人だ!」警備員が叫んだ。星人は光線銃を撃ちながら、実験場に侵入してきた。クロダチーフは駆け付けると、マックガンで応戦した。星人は撃たれて次々に倒れていった。

しかしジーン博士は星人につかまって宇宙船の方に連れて行かれていた。クロダチーフが追っていったときには、宇宙船に乗り込む直前だった。

「待て!」クロダチーフがマックガンを構えた。星人はまた後ろからジーン博士を羽交い絞めにして光線銃を突きつけた。前回より遠く、クロダチーフでも命中がおぼつかない距離であった。彼は狙いをつけた。また鼓動が高鳴り、あの忌まわしい情景が浮かんでいた。しかし今度はそれを打ち消すように

(自分を信じるのだ。)モロボシ隊長の姿も脳裏に浮かんだ。クロダチーフは意を決して引き金を引いた。

その弾は星人に当たらなかった。星人はそのままジーン博士を宇宙船に連れ込もうとしたが、横の機器がショートして星人が手を放した。ジーン博士はすぐにそこから逃げた。宇宙船のドアは故障して閉じない状態になっていた。

「よし、当たった。」クロダチーフは叫んだ。彼は星人を狙わず、横の機器を破壊して宇宙船の逃亡を阻止しようとしていたのだった。クロダチーフは宇宙船に乗り込んでいった。

 

外ではロボットが暴れていた。マックホーク1号とマックロディーの攻撃をはね返していた。そして強力な光線はマックロディーを破壊した。アカイシ隊員とゲンは外に飛び出し、それぞれ別々にマックガンで攻撃を続けた。それでもロボットはなおも実験場に近づいていた。ゲンは窪みに身を隠すと、レオに変身した。

レオはロボットに向かって行ったが、そのバリアに阻まれて、電撃を受けたかのようにダメージを受けた。ロボットがレオに近づこうとしたが、後ろにステップしてハンドビームを撃った。しかしこれもはね返された。ロボットは両腕を振り回し、レオに強力なパンチを放った。レオは吹っ飛ばされて倒れこんだ。深いダメージのため、カラータイマーが点滅し始めた。

 

クロダチーフは宇宙船に乗り込むと、光線銃で反撃する星人をすべて撃ち倒した。拉致された科学者や技術者を全員解放すると、彼らとともに宇宙船から脱出した。

「ロボット兵器に無理やり協力させられました。あれは強力なマーズシステムを積んでいる。」科学者の一人が言った。

「そのロボットが外で暴れているのです。対策はないのですか。」クロダチーフが言った。

「特殊な電磁波を当てれば、その装置は止まる。この実験場にもあるはずだ。すぐにはじめます。」科学者はそう言うと、実験場の制御パネルを操作し始めた。

 

クロダチーフから通信を受けたモロボシ隊長はレオにテレパシーで伝えた。

(ここから電磁波を放出してマーズシステムを止める。それまで何とかがんばるんだ。)

レオはうなずくと、迫ってくるロボットにエネルギーバリアで何とか食い止めた。しかしマーズシステムの威力はすさまじく、レオは少しずつ押されていた。実験場まであとわずかな距離になった。

 

「できました!」科学者が叫んだ。

「よし、電磁波発射!」クロダチーフが叫ぶと、科学者がスイッチを入れた。電磁波はロボットに照射され、ロボットの動きは止まった。レオはロボットを持ち上げると、上空に投げ上げた。そして落ちてくるところにエネルギー光球を放った。ロボットは空中で破壊された。

 

クロダチーフはその様子をモニターで見ていた。安心したようにほっと息を吐いた。そしてマックガンを押さえながらつぶやいた。

「自分を信じろ、か。」

クロダチーフの厳しい顔が、ややほころんで笑顔になった。